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77 リゼ、会議に出席する


 ハーヴェイさんは狐の魔獣が前足をくり出すすき間をぬって、グラウンドに飛び出した。


 す……すごい動きで避けてったけど、ハーヴェイさん、何者!?


 狐の魔獣はハーヴェイさんに噛みつこうと、興奮したフェリルスさんくらい素早く(テンションマックスのときのフェリルスさんは本当に素早い)、動いてたけど、ハーヴェイさんには当たらなかった。


「た、戦わないんですか?」


 わたしが騎士団のスカウトさんたちに声をかけると、彼らは顔を見合わせて、情けない笑い声をあげた。


「い、いやぁ……ハハ……」

「お嬢ちゃん、いいから俺たちとここに隠れてなよ」

「あれは騎士団の精鋭がもう何人もやられてる化け物だ」


 そ、そんなに強いの?


 わたしはハーヴェイさんが心配になって、そろそろと入り口に近づいてみた。


「おい、よせって」

「当たったら無事じゃすまないぞ!」


 ハーヴェイさんは狐の攻撃に全然負けてない――でも、反撃もできてない。


 そりゃそうだ、さっき初めて攻撃魔法撃った人が、この乱戦でもう一発って無理がある。


 わたしは――ちょっとくらいなら魔法使えるけど、どうしよう?


 ダメだったら逃げればいっか!


 わたしは軽率に手を出すことにした。


 狐の魔獣の胴体ど真ん中を狙った火の玉は、サッと避けられてしまい、会場に張られた魔術無効のバリアに炸裂して消えた。


 狐の魔獣の目玉がこっちを睨む。


 そのとき、わたしの横を、突風が駆け抜けていった。


 ――グウォォォッ!


 ものすごい獣のうなり声を上げて、白い獣が、巨獣の足の関節にガブリと食らいつく。


 狐の魔獣が甲高い鳴き声をあげる。


 後ろ脚を振り回す狐の魔獣。でもフェリルスさんはまだしがみついている。


「うそだろ――捕まえたのか……?」

「『テウメッサの狐』が……」


 よし、狐が気を取られてる今のうちに!


 わたしが魔法の第二弾を打とうとしたら、狐の首がぐりん! と化け物のように回転し、魔術阻害の呪念を向けてきた。


 狐の首がわたしに向かって長く伸び――


 食われる、と思った瞬間、あたりの空気が冷えた。


「【凍れ】」


 狐の魔獣が氷の魔術に対抗し、ものすごい量の魔術阻害をまき散らしているけれど、微妙に負けて、少しずつ毛皮にパリパリッとした氷が薄く張りついていく。


 振り返ると、ディオール様がいた。


 肩で息をしているディオール様は、なかなか凍らない狐の魔獣にしびれを切らしたのか、眉間にしわを寄せた。


「【すべて凍れ】」


 バカみたいに範囲を拡大し、大魔術で狐の魔獣をねじ伏せようとする。


 わたしが使った火花の魔術なんて火打石の火花ってくらいの巨大な魔術だ。


 会場から悲鳴が消え失せ、静まり返る。


 誰もが氷の魔術に見惚れる中――


 狐の魔獣は、フェリルスさんにしゃにむに噛みついて、ぺいっと投げ捨てた。


「フェリルスさんっ!」


 狐の魔獣は氷の魔術に侵食されつつあるグラウンドを、力強く後ろ足で踏み切った。


 高く跳んだ狐の魔獣が、遠く離れた街路に着地し、また跳んで、あっという間に見えなくなる。


 グラウンドを慌てて見渡すと、真っ白なモフモフの姿が見えた。


「フェリルスさん、大丈夫ですか!?」

「おうっ! ちょっと待て、まだグラウンドに出てくるな!」


 フェリルスさんがすうぅぅーっと息を吸い込むと、凍っていたグラウンドがさーっときれいになった。


「ご主人の冷気はいつ食ってもうまい!」


 フェリルスさんが尻尾を振り乱して、ディオール様の足元にかけていく。


「ハーヴェイさんは?」

「ええ……なんとか」


 ハーヴェイさんは狐の去った方を見上げながら、おそろしげにつぶやく。


「……なぜ、狐がここに……」


 ――この事件が波乱の幕開けだということを、このときのわたしはまだ知らなかった。


***


 その次の日、わたしは王立魔道具師協会の呼び出しで会議室に来ていた。


 協会の幹部が並んでいる。男の人四人と女の人ふたり、そしてわたし、合計七人。


「今日集まってもらったのは他でもない」


 アルベルト王子が口火を切る。


「狐の魔獣、『テウメッサの狐』の問題を話し合いたいと思う」


 狐の魔獣は、およそ三週間ほど前から姿を現すようになった。


 狐の魔獣は、討伐隊の前に姿を現さない。


 街中や郊外で、ひとりきりの人物に狙いを定めて、静かに襲う。


 その潜伏能力は驚異的で、サントラール騎士団が総力をあげて討伐に当たるも、続けて失敗。


 事態を重くみたサントラール側が、協力要請を王家と各地の地方騎士団に打診したのが、つい一週間前、という流れだった。


「討伐隊があらゆる手を尽くしても影さえ掴めなかったことから、『決して捕まらない者』、テウメッサの狐の個体名で呼ばれている……というのがサントラールの説明だったんだけどね」


 あ、名前の由来、そういうことだったんだ。


 道理であんまり見た目が狐っぽくないと思った。


 アルベルト王子が困惑した視線をわたしに向けた。


「昨日、サントラール騎士団の魔術試し打ち場が襲われ、そこに偶然居合わせた『氷の公爵』と、『ギュゲースの指輪師』リゼルイーズ嬢によって撃退された――という話だったんだけど、合っている? 結局、討ち取る前に逃げられたということだけど」


 その通りだったので、わたしはうなずいた。


 わたしは何もしてないんだけどね。あはは。


「サントラール騎士団の本拠地が襲われたのにもかかわらず、テウメッサの狐に手も足も出ず、公爵の手で追い払われたというのが、結構なニュースになってしまってね。おかげで王都の高等法院も大荒れだ」

「なんでほーいん? が荒れるんですか?」

「『国王がテウメッサの狐討伐に乗り出さないのは怠慢だ』とね。父上としてはサントラール騎士団に対処を任せておきたかったようなんだけど、そろそろ王家も何かしないわけにはいかなくなった」


 アルベルト王子は「とはいえ」と、真面目な顔つきになった。


「私としても、民が困っているのは見過ごせない。何かいい案はないだろうか」


 魔道具師協会のメンバーは、ほとんど反応しなかった。


 アルベルト王子が、彼らが発言しないのを気にしてか、もう一度口を開く。


「君たちにとってもそう悪いことばかりでもない。貴族たちから幾らか対策費を徴収できることになった。協力してもらえたら、恩賞を出す」


 突然、若い男の人が声を張り上げた。


「ギュゲースの指輪師どのがどうにかすればいい」

「まったくだ」


 と、賛同したのは初老の男性。


「わたし、攻撃用とか、罠用の魔道具はちょっと……」

「それはここにいるやつらとて同じこと」

「そんなことはないでしょう、ユーダリル親方」


 アルベルト王子が口を挟む。


「あなたは罠が専門だったはずだ」

「本業は狩人の弓です。罠は副次的なものですよ。第一、強力な魔獣なのでしょう? そのテウメッサの狐というのは。そんなものを罠にかけて、精霊さまの怒りを買うのはごめんですね」

「精霊の怒り……?」

「戒めの書ですよ、読んだことあるでしょう?」


 どういうことだろう?


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