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58 リゼ、レア素材で興奮する


 ディオール様は、わたしに、いつかすごい発明を持ってこいって言ってた。


 がんばろう! って思ったけど、でも――


 どんなものを作ったら、伝説級の魔道具って思ってもらえるんだろう。


 おばあさまがノートに描き残していたような作品かなぁ。


 あれはすごかった。


 あんな風にすごいものを、わたしもいつか生み出したいな。


 今はまだちょっと無理だけど……


 目の前にあるものを一個ずつ作っていくのがいいよね。


 と、決意を新たにしたわたしの前に、どさどさっ、とたくさんの麻袋が積み上げられた。


 目の前にはキラキラした笑顔のアルベルト王子と、荷運び用の人足。


「ご注文の魔獣蜘蛛の糸をお届けにあがりました」


 サラッと言ってのけたアルベルト王子に、わたしは開いた口がふさがらなかった。


 うわああああああ。


 高級レースと同じ値段がするって言われてる魔獣蜘蛛の糸が、こ、こんなに……!?


 わたしは職人なので、麻袋換算でだいたいどのくらいの値段かも分かる。


「お城でも売ったんですか!?」

「そんなわけないよ。自分で狩ってきたんだ」

「えええええ!? こんなに!?」


 すごすぎぃ……


 超レア素材の大量入荷に、わたしのテンションは最高潮まで上がったあと、急降下した。


「あ、ああああの、う、うちではちょっとですね、こんなにたくさんは買い取れないっていうか……!」

「自分で取ってきた素材だから、気にしないで。これはあげるよ。好きなように使って?」


 わたしはぶんぶんぶんぶんと首を振った。


 い、いくらなんでも、こんなに高い素材はただでもらえない!


「い、いただけません!! 高すぎるプレゼントをくれる人には気をつけろっておばあさまが!!」

「じゃあ、これをあげるから、私も商社の共同出資者に名前を入れてほしいな。それではダメ?」

「ディオール様に相談しないとダメなので!! とっても怒られるので!!」


 アルベルト王子はちょっとしょんぼりした。


「そっか……無理を言ってごめんね。でも、どうしたら気兼ねなく受け取ってもらえるかな? 私はこれをぜひともプレゼントしたいし、君だってきっと気に入るはずなんだ」


 ううっ、そうなんだよね。魔獣蜘蛛の糸は一度は紡いでみたかった幻の品なんだ。


 わたしは一生懸命考えて、先日アニエスさんが言ってたことを思い出した。


「あ……じゃあ、いただく代わりに、これに見合う金額の魔道具を納品する……というのでどうでしょうか!?」


 これならアルベルト王子も損しないし、わたしの手元にもいくらか魔獣蜘蛛の糸が残る。


「それいいね」


 アルベルト王子もにっこり笑って賛成してくれた。


「な、何をお作りしましょうか……?」

「もちろん、私が欲しいのは『姿隠しのマントタルンカッペ』」

「分かりました! がんばって作ってみます!」


 と言ってしまってから、わたしはまたうかつだったことに気づいた。


「あ……でも、まだ、先に研究してみないとぉ……」

「分かっているよ。研究中に足りなくなったら言って。また取ってくるから」

「ありがとうございますうぅぅ……!」


 わたしはさっそく魔獣蜘蛛の糸を紡いでみることにした。


 アルベルト王子が見学したいというので、手近な椅子に座ってもらっている。


 一本つまみ出してみて、驚いた。


「わ……きれい……!」


 綺麗だけど手にめっちゃくっつく……!!


 わたしの手袋はさっそくベタベタになった。


「こ、これって、紡ぎ方のコツとかってあるんでしょうか……?」

「どうなんだろう……? 魔道具師協会に問い合わせてみようか?」

「いえ……えっと、とりあえず、煮てみます」


 蚕と同じ方法でやってみよう。


 失敗したらしたでそのときは別の方法も探せばいいよね。


 わたしは鍋に少し取り分けて、軽く煮てみた。


 煮ているうちに糸が麺のようにほぐれてきて、ざるに取り分けて冷やすころにはかなり粘り気が取れていた。


 ……まだちょっとくっつくけど、まあいいか。


 とりあえずお試しで。


 初めての素材なので、丁寧に手で紡ぐことにする。


 試しに一本つまんで、魔力と撚り合わせ、【魔糸紡ぎ】開始。


 わたしは開始早々、するすると気持ちよくできあがる滑らかな糸に、驚きを隠せないでいた。


 普通、絹糸って、魔道具師の腕にもよるけど、何本か撚り合わせないと服に必要な太さが出ないんだよね。


 わたしは絹糸一本からでも紡げるけど、それにしてもこの魔獣蜘蛛の糸は滑らかすぎた。


 魔力ののりが違う……!!


 つるっつるの氷みたいに滑る……!!


 た、た、楽しい……!!


 わたしはものの数分で全部紡ぎ終わった。


 あまりにも表面が滑らか過ぎて、鏡のようにキラキラ光っている。


「す……すごい……! こんな糸初めて……!!」


 わたしはちょっと興奮してきた。


「ああ……染めてみたい……! 魔術式も載せて……織物にしたらどうなっちゃうんだろう!? キラキラでつるつるでふかふかな……何……何この糸……!? おかしすぎ……!!」


 アルベルト王子はちょっと引き気味だった。


「……そんなにすごいの、その糸?」

「ちょっと今魔織にしますね! 触ってみてほしいです!」


 わたしはざっくりと十センチ四方くらいの魔織を織った。


「ほらこの……分かります!? キラキラの、水銀みたいな布!」

「すごい……顔が映り込んでる」

「でしょう!? どうなってるんですかこれ!? それでいてやわらかくてつるつるなんですよ!? これで布なんです!! わけが分かりません!!」


 わたしはいてもたってもいられなくて、魔織に魔術式を載せてみることにした。


「とりあえず、赤色に【偏光】させてみますね」

「うん」


 これが成功するなら、幻影魔術もおそらく乗る。


 ダメなら、一から研究し直し。


 ドキドキしながら魔術式を書き込む。


 さあっと、ハンカチがピンク色に染まって――輝きだした・・・・・


 わぁ、きれい。シャンデリアの明かりできらめくステンドグラスみたい。


 王子が、ナニコレ? という顔でわたしを見ている。


 わたしにも分からない。


 なんで光ってるんだろう……?


 色も、わたしが狙った通りの真紅じゃない。


 でも、ムラなく染まっている。


 なんだろう、これ?


「ちょっと謎ですが、かなり魔術式は乗せやすい……ですね? 他の素材とは明らかに反応が違います」

「ふむ……」

「今度は幻影魔術の【風景同化】を直接かけてみます」


 わたしは周囲の風景と同化する魔術式を書き込んで――


 その瞬間、ハンカチに異変が起きた。


 真っ黒に染まってしまったのだ。


 ……え?


 わたし、黒くなる魔術式なんて書いてないのに。


「……な、なんでしょう? ちょっと研究してみないと分からない現象だらけです……」

「そっかぁ……」


 わたしは魔織をひらひらさせてみた。


 濃いグレイに変化する色調を観察しているうちに、なんとなく合点がいった。


 これ、繊維に光が乱反射してるんだ……!


 だから色を載せるとキラキラして、複数の色を同時に乗せると色が全部重なって黒くなっちゃうんだ。


 魔糸のバリエーションに、ガラスに魔力を入れて成型したものがあるけど、それに似た感じ? でも、それともちょっと違う。それ系の魔糸は光を全部通すので、顔が映り込んだりはしない。


 摩訶不思議……!


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