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47 リゼ、公爵さまの好物を探る

「なら、問題ないと思うわ」


 言い切るアニエスさんの後ろには後光があふれていた。す、すごい、なんて賢そうで頼りになる人なんだろう……!


「正式な弁護士などを挟まないといけない事案のときはその都度言うわ。一件いくらで費用が発生するけれど、それは」

「全然問題ありません!!」


 わたしはふと不安になった。


 そういえばアニエスさんって貴族だった……!


 こんな安いお給料で雇っちゃって大丈夫?


「あ、あの、お給料っておいくらくらいお出しすれば……」


 アニエスさんは不安そうに視線を下げた。


「言ったでしょ、見習い書生レベルのことしかできないのよ。ここに書かれている額面で十分よ。しかも代わりはたくさんいるわ。なんなら父の部下からもっと優秀なのを紹介してあげても」

「ぜひアニエスさんが来てください!!!!!」


 アニエスさんはおずおずとわたしを見た。


「い……いいの? 本当に、私で?」

「アニエスさんがいいです!!!」


 アニエスさんは嬉しそうに微笑んだ。


「分かったわ」

「よろしくお願いします!!」


 わたしはアニエスさんと細かな部分を相談して、週に二回、学校が忙しくないときに来てもらうことにした。


 アニエスさんは話を手早くまとめると、すっと立ち上がった。


「とりあえず、今保留にしている案件を全部見せてちょうだい」


 やる気だ……!


 わたしとアニエスさんは夕食で解散するまで、たくさんお話をした。


***


 アニエスは実家でディナーをとったあと、父親のディアマン男爵をつかまえて、こう言った。


「お父様、私、働こうと思うの」


 ディアマン男爵は目をむいた。


「何を言っているのだ……!? お前はまだ学園生だろう!? 勉学に励みなさい、しっかりと!」

「これも勉強の一環なのよ、お父様」

「何をたわけたことを……」


 ディアマン男爵は、話にならない、とでもいうように、アニエスに教え諭すモードに入った。


「いいかい、よく聞きなさい、かわいいアニエス。パパはお前に苦労をさせたくないから学園に入れているのだよ。それなのに働きに出るとは、パパの真心を無にするつもりかい? 菓子屋のせがれとのことは残念だったが、なに、そう気を落とすことはない! お前のような器量よしならすぐに別の相手が見つかるさ」


 ディアマン男爵は父の代から譲り受けた地方の高等法院の院長を務めあげ、男爵位を得て王都に栄転した、やり手の弁護士だった。


 キャメリア王国では、文官、法曹関係者の職位はのきなみ売官制を取っていて、金で売り買いされる。


 そのため、投機商品のように、次々と利率のいい職位を渡り歩く要領のいい人物もいれば、ディアマン男爵の父親のように、親から子に職位を受け継がせる者もいるのである。


 多くの庶民にとって、法曹関係の職位の買収は、貴族へ成り上がるための足掛かりの第一歩。


 ディアマン男爵はその仕組みの中で、大成功をおさめた人物なのだった。


 彼は遅くにできた一人娘のアニエスのことを溺愛しているが、少々心配性でもあり、娘の教育にもあれこれと口を出さずにはいられない性分をしている。


 アニエスは、そんな父のことを尊敬しつつ、少々うっとうしく思っていた。


「次の結婚相手はもっといい男にしよう。パパが全力で探しているところだからもう少し待ちなさい――」

「もう結婚はいいわ、お父様」


 父が父なら、娘も娘。


 アニエスも一度言い出したら聞かない性格で、相手が根負けするまで粘る姿勢は、父親そっくりだと父自身にも密かに思われているほどだった。


「私、やってみたいことができたの。許してくれないのなら、家出するわ」


 こうして父と娘の戦いの火ぶたは切って落とされた。


***


 アニエスさんがリヴィエール魔道具店にアルバイトに来てくれるようになって数日後。


 わたしはアニエスさんが綺麗に片付けてくれた書類と帳簿の山を見て、感動していた。


 アニエスさんすっごい……!


 わたしが『苦手だなぁ、嫌だなぁ』って思ってため込んでたやつ、全部片づけてくれた……!


 あ、頭のいい人は頭がいいなぁ……?


 わたしはアニエスさんが作ってくれた書類を持って魔道具師協会にも堂々と提出にいき、『とても分かりやすい』というお褒めの言葉までいただいた。


 これならきっとアルベルト王子も納得、大満足で、喜んでくれるよね!


 いやー、わたしのお店、順風満帆すぎ?


 スケジュールにも余裕があるので、わたしはずっと保留にしていたレストラン探しを再開した。


 ディオール様にお食事を奢るって約束してたけど、まだ一度も叶えてないからね。


 わたしはレストラン・ガイドに挟んであったしおりを開いてみた。


 わたしが一番気になっているのは――


 この、瑞雲帝国の料亭!


 満月全席って言って、ものすごく珍しい食材のご馳走を三日三晩食べさせてくれるんだって!


 王都にある料亭では、その簡易版として、七品の珍品を食べさせてくれるということだった。


 ディオール様は貴族だから、キャメリア王国のご馳走には感動がないかもしれないけど、遠い異国の珍しい料理だったら驚いてくれるかも?


 海燕の巣とか、お魚の活け作りとか、もうお話を聞くだけでワクワクするよね!


 だけど――


 わたしはレストラン・ガイドの料金表をチラッと見た。


 料金・時価って、どのくらいなんだろう……?


 そんなお店、入ったことない。


 庶民が行っていいお店じゃないのかも?


 連絡をしてみたいけど、まだちょっと怖いなぁ。


 わたしは瑞雲帝国の料亭を心の『憧れ』リストに書き残しつつ、もうちょっと現実的なお店を探すことにした。


 そもそも、ディオール様の好きな食べ物ってなんだろう?


 一緒にごはんを食べるときはそれとなく観察してるけど、まだ読めてこない。


 いつもつまらなさそうな顔でごはん食べてるから、どれが好きなのかいまいち分かんないんだよね。


 わたしがロスピタリエ公爵邸のディナーで、チラチラと向かいに座って食事をしているディオール様を見ていたら、じろりと睨まれた。


「……なんだ?」

「な、なんでもありません!」


 わたしはさっと目をそらす。


 じろじろ見すぎて怒らせちゃったかも。


 不安に思いつつ、わたしもメインディッシュをぱくり。


 ……今日もおいしい!


 わたしの様子を察したピエールくんが、すかさずメニューを教えてくれる。


「今日は鯛のクスクスだそうでございます」

「おさかな! おいしいです!」

「シェフも喜びます」


 わたし、お肉の方が好きなんだけど、ディオール様のお屋敷で出てくるお魚はどれもめっちゃおいしいのなんでだろう?


 変わった形のパスタにお魚の出汁が凝縮されてて、うまうまだった。


 こんなにおいしいのに、ディオール様はあんまり嬉しくなさそうな顔。


 ほんと、何が好きなのかなぁ。


 わたしがまたチラチラとディオール様を観察していたら、ピエールくんが話しかけてくれた。


「ディオール様、リゼ様が何かお聞きになりたいことがありそうですよ」


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