#083 個人面談(幼女の頭突き)
サブタイが思いつかないので暫定で。
あと長くなりそうなので分割します。
陽ノ森幼稚園には、保護者と子と先生で行う定期面談が年に二回ある。
それとは別に、保護者が希望したり、逆に幼稚園側から提案されて行われる臨時面談というものもあるそうだが、やったことが無いので詳しくは知らない。
一回目は年度が始まって一ヵ月経った頃。
面談の場所や日時はある程度希望を取り入れてもらえるということで、我が家はちょっと特殊な事情ということもあり、お隣さんと一緒にGW前の土曜日に家庭訪問をしてもらった。
親と担任とが改めての顔合わせをして、お互いの信頼関係の構築が主な目的だ。
保護者は、先生方がどのような人物なのか。
そして、我が子が自分の元から離れた状況での生活の様子を知る機会。
先生にとっても、その子の親がどのような人物なのか。
そして、子どもがどういった環境で育ってきたのかを知り、今後の付き合い方や教育方針を考える参考にするのだろう。
他にも目的はありそうだが、だいたいこんなところではないだろうか。
もちろん子どもにとっても意味がないわけではない、と思う。
近所のママ友曰く、親が先生と親し気に話していたり、家に来たことがあるというだけで”特別な人”という認識が産まれ、先生との距離がぐっと縮まったとか。
確かに面談後から、先生に抱っこされて泣き止む子が増えたし、言うこともよく聞くようになった感じはあったかもしれない。
そして今回――二回目の面談は年度末にある。
一年間を通しての総評や相談事の他に、来年度に向けた情報交換などを行うらしい。
今回も戸塚家と合同で家庭訪問をしてもらうことになっており、現在大人たちが戸塚家のテーブルを囲んでいた。
前回不参加だったミツヒサさんを加え、ミオさんと母上、そしてセイコ先生とリコ先生の五人が同席している。
僕はというと、面談をしている傍らでスズカと静かにじゃれ合い、フウカとキョウカの様子を見ながら聞き耳を立てているところだ。
「ではまずスズカちゃんから……。年少さんのうちにできるようになっておきたいことは問題なくできてますね。身の回りのことはおおよそ一人でできていて、幼稚園でもみんなのお手本です。上手にできない子のお手伝いをしてくれるので、こちらとしても大助かりです」
「授業も積極的に参加していて、運動も勉強も遊びも楽しそうにしてくれています。仲の良いお友達も……マコトくん以外に何人かできました。言葉数はちょっと少ない気もしますが、お友達とのコミュニケーションを苦にしている様子はありませんね。言いたいことが言えないといったわけではなさそうですし、その辺りは気にされる必要はないかと思います」
「私たちや他の先生の言うことも聞いてくれますし、ルールや約束も理解できているようです。集団での行動も問題なくできているので、年中さんにあがっても苦労することはないと思います」
リコ先生から聞かされる我が子の評価を、戸塚夫婦は相槌を打ちながら聞いている。
ミツヒサさんは娘が褒められているせいか口元が緩みかけているが仕方ないだろう。気持ちは非常によくわかります。僕は表情には出しませんが。
「(……まーくん、どうしたの?)」
面談の邪魔をしないようにと、スズカが両手で筒を作り、声が漏れないよう囁き声で耳打ちしてくる。
顔に出さないようにしていたつもりでも、スズカには見破られることが多いのは気のせいだろうか。
何か気恥ずかしくなってきたので、スズカの頭を撫でてうやむやにしておこう。
「…………むふぅ♪」
「ごッ……」
そしてお腹へと飛んでくる頭を、後ろに倒れ込みながら受け止める。
幼稚園で遊びまくって筋力がついて来たせいか、その攻撃力が日に日に増してきているのが心配になる。
(前世で合気道を学んだのは、このためだったのかな……)
お腹で攻撃を受け止めるような技があったかどうかは怪しいが、受け身はそこそこ様になっているのではないだろうか。
「家でのスズカちゃんは、いつもああいった感じで……?」
「えぇ、今日は絶好調ですね」
「……なるほど」
幼稚園で見るよりもだいぶ過激なスキンシップをとるスズカに、セイコ先生もリコ先生も目を丸くしているようだ。
前回の家庭訪問ではお互い母親の膝の上に居たし、幼稚園では一応淑女を意識しているようだから、荒ぶるスズカは珍しく映るかもしれない。
「それで少し心配なのが……」
おっと雲行きが怪しいワードが。
「マコトくんと一緒に居られない時は、精神的にちょっと不安定になることですかね」
「「「あぁ……」」」
親たちも困ったような表情でこちらを見始める。
でもスズカは一人でもちゃんと幼稚園に行ったでしょ? と思っていると、ミオさんがその話に触れてくれた。
「まーく……マコトが休んだ日もあったかと思うんですが、その時のスズカは……?」
「ちょっと元気がなさそうでしたね。他のお友達と遊んでいる時も表情は固かったように見えました……」
「そうだったんですね……」
「………………?」
大人たちの視線を一手に受けて、どうしたんだろうと可愛らしく首を傾げるスズカ。
しかしすぐに興味が無くなったのか、背後から圧し掛かってくるようなじゃれ合いに変わる。
「……まぁ、身の回りのことや授業はいつも通りにできてはいましたし、それほど心配するほどでもないと思います。この年頃のお子さんは、お父さんやお母さん……のような存在が恋しくなるのは自然なことですから」
にっこりと余裕のある様子で戸塚夫妻に笑いかけるセイコ先生。
(――とは言ってもらえたものの、やっぱりどうにかしないといけないよね……)
僕と一緒にいる時を楽しいと思ってもらえるのは光栄なことではあるが、スズカの今後を考えると早めに取り掛かった方が――
「むふぅ」
――まぁ、おいおい考えれば良いだろう。時間が解決してくれることもあるだろうし。
肩越しから顔を出して、柔らかなほっぺたをくっつけて甘えて来る女の子を引き剥がそうとするのは、野暮と言うものだろう。
「幼稚園では、スズカは他のお友達とどんなことをして遊んでますか?」
「そうですね……。一緒に遊んでいるお友達にもよりますが、お絵描きや塗り絵をしたりするのをよく見かけますね。マコトくんの傍に陣取って。絵本を読むことも。あとは……ジュンちゃんと縄跳び勝負とかもしてますよ? もちろんマコトくんを巻き込んで――」
その後も質問したりされたり、時々雑談を交えながら面談は進む。
ミオさんもミツヒサさんも、スズカの幼稚園での様子はほぼ予想通りだったようだ。
まぁ毎日のように幼稚園で何をしたのか話をするしね……
報連相って大切だもんね。
そして話題は戸塚家から八代家に。
「続いてマコトくんですが――」
読んでいただきありがとうございます。
むふぅは日々成長しております。