表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/189

#010 入園前に駄々をこねるのは

 幼稚園デビューの日が近付いてきた。


 この春から()()()は幼稚園に通う。


 まぁ当たり前の流れというか、僕とスズカは一緒の幼稚園に行く。

 母同士が親友でアパートの隣の部屋に住んでいるので、わざわざ違うところを選ぶことはない。

 仕事が忙しい母に代わって、ミオさんが一緒に探して見つけてきてくれた。


 で、今何やっているかというと、幼稚園に行くための気持ちづくり。


 幼稚園や保育園に行くにあたって最初にぶつかる壁。


 世のお父さん母さん方はさぞ苦労されたのだろう。


 子どもがごねるのだ。行きたくないと。お父さんお母さんと離れたくないと。


 だって生まれて初めて親から離れて長時間過ごさないといけない。

 知らない人しかいない慣れない環境で。


 大人だって不安になるだろう?


 入社初日とか。転職初日とか。


 家や親から離される理由だって理解できないだろう。

 昨日までずっと慣れ親しんだ環境から離れなければならない。


 それを生まれて3年、狭い世界しか見たことがない子がやらなきゃいけないんだ。

 そりゃあ泣いて喚いて不貞腐れる。


 好奇心が旺盛な子であればある程度マシかもしれないが、不安は不安だ。


 そう考えると、物心ついた人生最初の難関()は、幼稚園・保育園へ行く気持ちの準備だろう。

 大人にとっては保育園を探す方が先かもしれないが。




 というわけで、八代家戸塚家そろって僕とスズカの気持ちづくりをしているわけ。






 ……僕にいると思う?


 お留守番マスターだぞ? 母は平日昼間は働きに出ているからね。


 そもそも中身は30過ぎたおっさん。

 前世では出張なんて当たり前、知らない場所に行くことには何の抵抗もない。


 ゆえに幼稚園に行くことに関して思うところはない。

 ようやく人間社会の荒波へと繰り出すときが来ただけだ。




 ……そう考えるとちょっと不安になってきた。

 が、まぁ大丈夫だろう。早いか遅いかの違いだ。ともかく僕は何の問題もない。


 だから気持ちづくりが重要なのは八代家(我が家)ではなく戸塚家(お隣さん)


 で、その戸塚家なのだが――




「ママ、すーはだいじょうぶ。まーくんいるから」

「ううぅ……。すーちゃん、そんなこと言わないでぇ……」




 ――という状況だ。


 スズカももうだいぶ活舌がよくなった。

 毎日一緒に活舌トレーニングをした甲斐があった。舌足らずなかわいいスズカを失ったのは人類の損失だが! いや今でもかわいいけど!


 でも今はそっちは置いておいて。


「すーちゃんママと一緒に居たくないのぉ?」

「ママはすき。いっしょにいたい」

「すーちゃぁあああん!」


 こっちや。


 スズカは問題なさそうだ。

 僕がいるから。嬉しいことを言ってくれる。ふへっ。


 問題なのはミオさん。

 入園するにあたって一番荒れているのはミオさんだ。


「おかーさん、いいの?」

「いいのいいの。ミオは昔っからあんな感じだから……」

「そーなの?」

「うん、私にも違う高校行こうとしたらあんな感じだったし……」

「へぇ……」

「そのときは頑張って一緒に勉強して同じところ行ったけど、今回はどうしようもないからねぇ……」


 母上が思い出を懐かしんでおられる。ちょっと照れてる。


「――すーちゃんが一緒にいてくれないなら、私、幼稚園の先生になる!」

「ママもいっしょによーちえん?」

「そうよ、いつも一緒よ!」

「ママいっしょ!」


 おっと予想外の展開に。でもそう簡単に幼稚園の先生ってなれたっけ?


「おかーさん、いいの?」

「……まぁなるのはミオの自由よね。資格も持ってるし」

「もってるんだ……」


 幼稚園の先生って幼稚園教諭資格が必要なんだよね。

 ミオさん大学で取ったそうで、実現可能でした。


「さすがに無理よ、ミオ。お腹の中の子だっているでしょ?」


 そうだよね。

 さすがにお腹の子を抱えてやる気はないよね。


 ちなみにミオさんは二人目を妊娠中。まだ三ヵ月くらいで見た目はほとんどわからない。戸塚家の家族計画は順調のようです。


「じゃあすーちゃん、まーくんが幼稚園行かないならどうする?」

「まーくんいかないならすーもいかない」

「よし!」

「よしじゃない!」


 母のツッコミが炸裂する。


「ミオもさすがに二人の面倒見ながらお腹の子育てるのは難しいでしょ?」

「ううん、全然。むしろ二人がいないと難しい」

「なんで!?」


 あぁ、これはなんというか……。


「だって子育て楽だったんだもん。まーくんがすーちゃんの面倒見てくれるから言うほど手かからなかったし! そしてまーくんがお手伝いしてくれるから、すーちゃんも真似してお手伝いしてくれるんだもん。家事も楽だったんだもん」

「それに関しては世の中のお母さんに一回謝っておこうね、ミオ。私もあんまり言えることじゃないけど……」

「うぅぅ、楽してゴメンなさぁい」


 僕はほぼ毎日、戸塚家と一緒にいる。

 平日はもちろん、母が休みの日も一緒に遊ぶからだ。

 会っていないのは風邪を引いたときか、戸塚家がどこか行く時くらいか。


 で、だいたい僕がスズカのこと見てるもんだから、ミオさんの負担は世のお母さん方に比べると、だいぶ楽になっている……はずだ。少なくとも気苦労的なものは。

 なんせ30過ぎのおっさんが傍にいるんだから。……それはそれで危ない。


 で、僕もだいぶ成長した(と言っても三歳だけど)おかげで、自分のことはだいたい一人でできるようになったし、少しずつお手伝いだってやっている。


 掃除洗濯は頑張った。

 トイレ掃除とか、テレビの裏の掃除とか。

 子どもの身体って小さいから狭いところに潜り込めて掃除が楽なんだよ? 便利だね!


 あと洗濯物たたんだりとか。ミオさんのおっきいの。


 とまぁそんな感じで僕がやってるもんだから、当然一緒にいるスズカもマネするんだよね。


 さすがにトイレ掃除とかはさせないけど、洗濯物で簡単なやつたたんだり、カーペットのコロコロやったり。あとおもちゃの片付けとかももうできる。


 スズカがめっちゃええ娘に育っとるんよ。

 洗濯物たたみ終えて、「できたぁ」ってにへらぁと笑うんよ? かわいすぎるでしょ? 褒めちぎるでしょ?


「まーくんお手伝いできて偉いわね」

「うん」


 母に褒められる。もっと褒めていいのよ。


「せめてまーくんだけでも!」

「すーはぁ?」

「やっぱりすーちゃんも!!」

「……ミオ、我慢なさい」

「えぇ……。これから一人で家にいて、すーちゃんたちのお手伝いなしでなんてっ!」

「「「……」」」

「もう私、すーちゃんとまーくんがいない生活なんて考えられないの!」

「「「……」」」

「私を置いてかないで~!」


 子ども(スズカ)が優秀だと(ミオさん)が駄目になるっぽい。


「うぅぅ、すーちゃん、ママ寂しい」

「ママ、だいじょうぶぅ?」

「うぅん、すーちゃんと一緒にいたい」

「ママ、がんばって」


 ミオさんが駄々をこね、スズカがそれを励ます。

 逆だよね普通?


「まーくんは……、大丈夫そうね……」

「うん。ぼくはだいじょうぶ。おかーさんともっと一緒にいたいけど」

「まーくん……!」


 別に寂しくないわけじゃないよ? 我慢できるだけで。


 僕は母に抱きしめられながら、戸塚母娘の寸劇を見る。


 これが入園前夜まで繰り返された。


読んでいただきありがとうございます。


次回⇒#011「お披露目会」 2020/10/17 21:00更新予定

新キャラとか出してちゃんと話膨らませないといけないよね……次で出るかはわかりません


改稿履歴:

2021/06/13 22:31 園服についての文言を削除(通園は体操服に変更するため)

2021/06/14 18:12 誤って#011が上がっていたため修正しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと待っておかあさん 幼児が「資格」を理解してるのは さすがにおかしいって!
[気になる点] いつの時代かよくわからない。現代より10年くらい前みたいな設定だった気がするけど、遠足のおやつは10年前はあったと思う。現在はおやつは禁止か交換禁止が当たり前。そして現在なら幼稚園じゃ…
[良い点] 子供か居ない、寂しい。まー君居ない、お手伝いが・・・。新しい考え方ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »