この……末っ子悪魔め!!
「この絵、いらないんだけど」
「……はい?」
レオンからの第一声に、思わず裏返った声で返事してしまった。
自信満々だった絵をいらないなんて言われたんだから、そんな反応になっても無理はない。
「あの、いらない……とは?」
「そのままの意味。この絵が邪魔」
「邪魔!?」
絵があったほうがイメージしやすいと思って、がんばって描いたのに!?
ショックを受けた私の様子など気にする素振りもなく、レオンはパラパラとすごい早さで紙をめくっていく。
もう最後の人魚姫まで読み終わりそうだ。
早っ!!
子ども用に短い話だとしても、早すぎじゃない!?
ちゃんと読んでる!?
私の持っていた数枚の紙を、レオンが読んでいる──そんな光景を、ビトがポカンとしたまま静かに見守っている。
なぜか、私に対する警戒心が強まったようだ。
『何者なんだ、お前』という不審そうな視線をビシビシと感じる。
レオンと普通に会話する人なんて、この家じゃ兄2人と図書室のジェフさんくらいだもんね。
まあ、私もこの絵本を持ってなかったら無視されちゃうんだけど。
最後のページを読み終わったあと、レオンはスッと私に紙を返してきた。
表情が何も変わらなかったため、レオンがどんな感情で読んでいたのかまったくわからない。
「あの、どうでしたか?」
「あんたってさ……」
「?」
な、何? つまんなかった? 失格?
「頭おかしいんじゃない?」
「はあ!?」
頭おかしい!? え!?
本の感想じゃなくて、私自身がディスられてる!?
思いも寄らない言葉に、つい「はあ!?」なんて言ってしまった。
でも、そんなことはレオンは微塵も気にしていないようだ。
ムッとした様子もないまま、話を続けている。
「フルーツから赤ん坊が出てくるとか、海の中の城に行くとか、体の半分が魚の女とか……何これ?」
「そ、それは……」
それって、桃太郎と浦島太郎と人魚姫のこと?
私にとっては馴染みの話すぎて特に気になってなかったけど、そう冷静に聞かれるとたしかに変……かも。
本に関することだからか、めずらしくレオンがペラペラと話している。
こんなに話すキャラだとは思ってなかったから意外だ。
でも、そんなレオンに私はもっと意外そうな目で見られている。
意外そうというか、呆れているというか、変な女だと思われていそうというか……。
どうしよう。もっと普通の話にしたほうがよかったかな?
これじゃ本にしてもらえないかも……!
「まあ、次の展開が読めないのはおもしろいけど」
「……え?」
「それも全部本にしてってジェフに伝えて」
「いいんですか?」
「うん」
それだけ言うと、レオンはまた自分が読んでいた分厚い本に視線を戻した。
お礼を言いたいけど、今ここで言ったらきっと好感度が下がってしまうだろう。
やった――!!
合格もらえたっ! じゃあ、早速このままジェフさんのところに……。
「あ。待って」
「はい?」
歩き出そうとしたタイミングで、レオンが再度話しかけてくる。
嬉しさで笑顔のまま振り返った私に、レオンは真顔でドキッパリと告げた。
「今度からあんたは絵を描いてこないで」
「……え?」
「話の内容と絵が違いすぎて邪魔だから。文字だけにしてくれる?」
「え……っと、それだと絵本にならな……」
「もう行っていいよ」
「…………」
言いたいことだけ言って、またレオンは本に視線を戻した。
穏やかで威圧感はないけど、この自己中っぷりは兄たちにそっくりだ。
この……っ、悪魔兄弟の末っ子め……!!!
グググ……と拳を握りしめて、言いたいことを我慢する。
ここで好感度を下げられたらたまらないので、何も言わずにクルッと背を向けて歩き出した。
ずっと近くに立っていたビトも、黙ってあとをついてくる。
絵が邪魔って何よ!?
イメージしやすいようにわざわざ描いたのに、内容と違いすぎるって何!?
中庭からだいぶ離れた廊下で、私はピタッと足を止めた。
「ねえ、ビト。ちょっと、これ読んでもらえないかな?」
「これ……って、さっきレオン様に渡していたやつですか?」
「そう。私が書いた絵本……になる前の紙」
「絵本? フェリシー様が書かれたのですか?」
コクンと頷くと、ビトは私が差し出した紙を素直に受け取った。
渡したのは桃太郎の話だ。
レオンは本好きだから絵はいらないって思ったのかもだけど、ビトなら絵があったほうがわかりやすいって言ってくれるよね?
そんな期待を込めてビトを見つめると、数枚めくったところでビトが「ブフッ」と盛大に吹き出した。
そして、一瞬で何事もなかったかのように表情を戻した。
……ん? 今、笑った?
「……どうかな?」
「発想がすごいな、と思います。ところで、この話に出てくる鬼というのはなぜこんなに小さいのですか? これなら1人で簡単に殺れそうですが」
ビトが、私が描いた絵を指差している。
「……それは鬼じゃなくて味方の犬よ。鬼はこっち」
「え? これ、木じゃないんですか?」
「…………」
犬が鬼に見えて、鬼が木に見えるってどういうこと!?
ビトの目がおかしいの!? それとも私の絵がおかしいの!?
こんな勘違いをさせてしまうなら、レオンの言った「話の内容と絵が違いすぎて邪魔」という言葉も納得できてしまう。
あまり認めたくないけど、私の画力は自分で思っている以上にやばいのかもしれない。
「昨日言っていた孤児院に届けたい本って、フェリシー様が作った本のことだったのですね」
「ええ。これを見本に、ジェフさんがちゃんとした本にしてくれるの。……絵は、違う人が描く予定よ」
「フッ……! あ。すみません」
私の付け足した一言に、ビトが小さく吹き出す。
眼帯つけた真顔のクールキャラかと思っていたけど、意外とよく笑うようだ。
まあ、笑ったあとすぐに真顔に戻ってしまうけど。
これも好感度40%の効果?
もし悪魔兄弟たちの好感度をそれくらいにできたら、あの3人もこうして笑顔くらい見せてくれるようになるのかな?
3兄弟が私に爽やかに笑う姿を想像して、ゾーーッと背筋が凍る。
うっ……! こわっ!!
全員、悪意のこもった暗黒微笑にしか見えないわ!
ってゆーか、レオンの好感度をチェックしなきゃ!
ビトに不審がられないようサッと手を動かしてマイページを開く。
空中に浮き出た文字を見て、私は目を丸くした。
「えっ?」
『好感度
エリオット……12%
ディラン……11%
レオン……17%
ビト……45%』
レオンが3%……ビトが5%増えてる!?
えっ? 選択肢のなかったキャラも、一緒にいると好感度が変化するの!?
ゲームの中で3兄弟全員と同時に会うことはなかったため、初めて知った情報だ。
私の書いた絵本を見せたことでビトの好感度も上がったんだろうけど、もし見せずにいたら「あの紙はなんだ?」って不審がられて好感度が下がってたかも!
あ……危ない!!
そういう大事なことは、最初に言っといてよね!!
誰に向かっての文句なのか自分でもわからないけど、私は心の中で不満を叫んだ。
ここまで読んでくださった方、ブクマや評価を入れてくださった方、本当にありがとうございます。
明日は『レオン視点』です。
お楽しみに✩︎⡱
ストックがなくなるまで毎日投稿を続けます!
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菜々