64.女子高生(おっさん)の×××××
〈2-A組〉
「──んっ……ぁんっ………」
授業中、中間試験へ向けた仮テスト──鉛筆が机を弾く音が教室内に静かに響く最中……そんな場面に相応しくない淫靡な喘ぎ声が生徒達の集中力を著しく殺いでいた。
しかし、誰もが気にしていない風を装いながら……顔を真っ赤にしながらも立ち塞がる難問に挑んでいく。
それはその喘ぎ声の主が、俺こと学校一の美少女と名高い【波澄アシュナ】だからだろうことは想像に難くない。
男子生徒達は顔を赤くするだけではなく、へっぴり腰になっている。きっと今夜のご飯のお供にするべく、その声を耳に焼き付けているであろうことはもはや明白である。
「んんっ……はぁ……はぁ……」
苦しい、だけど、感じちゃう。
慣れないシチュエーションに息切れが起きる。冬が終わりを告げたばかりだというのに、汗が頬を伝い、流れ落ちて用紙を濡らす。
一から説明しなくてはなるまい、何故、こんな事になったのか……その発端を──
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-昨夜-
事は前日──家族と共に食卓を囲んでいた時刻まで遡る。夕食を一番に終え、俺は食休憩でリビングのソファーに寝転がっていた。
「ひぃっく、ぅぁ"ーっ……」
満腹になったからか、口から自然にしゃっくりが出る。
前世、羞恥心というものが屋根まで飛んで弾けて消えたおっさんになってから、酔っぱらいがする嗚咽のようなしゃっくりが癖になってしまい、それをそのまま美少女になってからも引き継いでいた。
「アシュナ、もう少し人目を気にしなさい。いくらおじさん臭さすらプラスにできる美少女とはいえ物事には限度というものがあるわ」
それを母から指摘される。奔放であり自由、放任主義でちょっと変人でもある母から注意を受けたのは久しぶりなので少し戸惑う。
だが確かに、先日のテンマの件でも……おっさんとして振る舞いすぎた結果──更に好かれてしまうという失態を犯していた俺としては反省すべき点でもあった。
テンマの件が超ウルトラレアケースである事も差し引いても、あまり素をやりすぎるのも良くないかもしれない。
「でも癖になっちゃってて……」
「なら、両手を太ももの間に入れて口を閉じながらしゃっくりしてみなさい。可愛らしくなるわ」
別に可愛らしさは求めていないのだが、母の言に従っておっさん臭いしゃっくりの癖を直す事にした。
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-時は戻り、現在-
そして、テスト中にしゃっくりが再発したから母の言う通りにしてみたらご覧のありさまになった。これじゃあまるでテスト中に自慰行為にふける変態のようだ。
だけど、闇が芽生え始めたおっさんには自分のしゃっくり一つで生徒や教師がモジモジするのが快感になってしまっていた。
ちなみにテストでは俺以外が著しく集中力を欠いた結果……一位の成績を収める事ができ、フェロモンを振り撒いたからか更にみんなから優しくされるようになった。
やはり母って凄い。