63.女子高生(おっさん)のデート③
〈大型ショッピングモール〉
「──そして今日のキミだ。キミは俺に奢らせようともせず、きっちり自分の分を自ら支払っていたし女性ならば普通は立ち食いそばに嬉しそうに入ったりはしない。それに財布だ、まさかマジックテープの財布を使っている女子高生がいるとは目を疑った……そういった部分もキミは魅力的すぎる」
鳳凰の話はいつの間にか俺の恥ずかしい暴露大会となった。鳳凰は誉めてるつもりなのだろうが、端から聞くとディスってるようにしか聞こえない。マジックテープの何が悪い。
長くなりそうだし、周囲のおっちゃんおばちゃんに聞き耳を立てられ恥ずかしかったので話を遮るように尋ねてみた。
「──あの、それで何で俺……私と結婚したいって思えるの? どう考えても品性が無いし……自分勝手の変な女子高生だと思うんだけど」
「俺が思う品性とは……嘘で塗り固められた行儀の良い所作ではない──キミは在りのままで充分な品格が備わっている……まぁ、それを理解しているのは俺だけでいいがな……ふふ」
そう言って、鳳凰はうっすら笑みを浮かべる。陰の者がやると『ニチャアッ……』となる笑みでもイケメンがやると絵になるのはズルいと思った。
とにかく話をしてわかったのは二つ、鳳凰は結婚相手に女子力なんて一切求めてはおらず……おっさんみたいな行動をする女性が好きな変態だということ。おっさんの素を見せたのは完全に逆効果だったわけだ。
そして意外とまともで真面目な青年だということ。勢いと場面だけで生きているイケメン陽キャには二度と騙されない、と心に誓い身構えていたが……この青年はそんな類ではないようだ。
ならば、きっちりと向き合って真剣に話をすれば伝わるはずだ、と改めて鳳凰に向き合った。
「ごめん、鳳凰くん。何度も言うけど気持ちには応えられない、はっきり言うと……私、女の子が好きなんだ。だから──まずは『友達』になろう」
「友達……?」
「うん、成人まではまだ時間があるんだし……その間にお互い気持ちが変わる事もあるかもしれない。未来は誰にもわからないんだから」
「……ふ、俺の気持ちは変わる事はないと断ぜられるが……つまりは俺が根負けするかキミの気持ちが変わるかの勝負というわけだな。いいだろう、では改めてよろしく頼む、アシュナ。俺の事はぜひ天馬と呼んでくれ」
「うん、わかった。テンマ」
こうして俺とテンマのファーストコンタクトは、友達になるという……お互いにとって良い落としどころでひとまず落ち着いた。
(危ない危ない……これで多少は結婚結婚迫られるのも落ち着くかな……)
新たに芽生えたおっさんの悩み──『男にちやほやされて持て囃されるのがめっちゃ気持ち良くなってきた』という闇の部分が目覚め始めたのは……ひとまず心の内にしまっておく事にしよう。
〈デートおわり〉