33.女子高生(おっさん)の小説家デビュー?-②
編集者に連れられ、俺は出版社の事務所へ案内された。理想描いていた出版社とは違い……そこは何処にでもありそうなテナントビル。受付嬢がいるわけでもなくーーと、いうか無人。
エレベーターで上階に行き、部屋のドアを開くと……思い描いた出版社とは違う理由が理解できた。
「社長、連れてきたっスよ~。やっぱ頭空っぽの女子高生はやりやすいっスわ」
チャラい編集者が入室するやいなや豹変し、醜いニヤケ顔を浮かべる。室内は映画やドラマで出てくるまんまのヤクザ事務所そのままであり、若いチンピラみたいなやつが数名いた。
「かっかっ、そーだろ。どいつもこいつも身体にしか価値がねえってのをわかっちゃいねえ。やれアイドルになりたいだのやれ女優だのやれ小説家だの……バカじゃねえのかよ、なぁ?」
社長と呼ばれたこのグループの長が若い衆に賛同を求め、チンピラ共は媚びへつらい笑う。
どう考えても、こいつらは編集者じゃないし、ここが出版社じゃない事は確かだった。
チャラい編集者が退路を塞ぎ、鍵を閉める。
「残念だったな可愛い嬢ちゃん、ここはお前らみたいなのを騙くらかしてAV業界に売り込む場所さ。悪いがもう逃げられねぇぜ? ここで若い衆の相手してやってくれ、上手く撮影してやるからよぉ」
「そーいうこと。それをばらまかれたくなけりゃあ俺らの言う事聞いとけよ、気持ち良くなってカネも稼げるんだから感謝しろよ。書いてたつまんねー小説なんかよりよっぽどカネになるぜ」
どうやら、真実はそーいうことらしい。いわゆる『スカウト詐欺』。甘言に誘い、夢見てる人達を喰い物にする連中。
チンピラ達が俺に迫る、飢えた獣のように。
獣と決定的に違うのは表情だけーー人間だけが見せる、この世の醜さを一点に集結させたような下卑た顔。
その醜さに、思わず、俺も笑った。
そして詐欺集団に向かって言い放つ。
「……ふふっ、よかった『想像通り』で。いや、想像よりだいぶ間抜けた集団で」
「……は?」
「こんな前時代の化石詐欺なんかに引っ掛かるわけないでしょ、こっちはもっと巧妙な詐欺のあった時代から来てるんだからね。頭空っぽのクソ詐欺師さん」
褒め称えてスカウトした子を部屋に連れこんで、無理やり襲ってビデオに収め、脅すって。いつの時代の詐欺だよ、やるなら契約約款に小さい文字で明記させて騙すとか、先に契約金を払わせるとかやり方があるだろうに。雑すぎる。
ちなみに、どんなやり方だろうが詐欺なんかしちゃダメ。絶対。
「わけわかんねー事言ってんじゃねえ、どんな状況か理解してねーのかクソ女が」
「理解してないのはあんた達、詐欺だって知りながらのこのこついてきたのは何でだと思う? ……てめーらみたいな夢を喰い物にする連中がムカつくから。お前ら、許さんぜ」
バタン!!
「「おうおう!! てめーらがアシュナちゃんを騙した詐欺野郎共か!! 警察連れてきてやったぜ!! 神妙にお縄につきな!!」」
おっさんが一度言ってみたかった『スケバン刑事』の決め台詞で言おうとしたら、事前に打ち合わせて連れてきていたDQN部下『A.B.C』が警察を連れて突入してきた。
〈後日談へ続く〉