ボーナスステージ.女子高生(おっさん)と女子達Ⅵ
〈ヒマリの部屋〉
「ごめんね~散らかってて…………どうぞっ」
初めて、女の子の部屋に来た。
もはや別空間だった。
散らかっててというが、全く散らかってなどいない。
こういうのでいいんだよ、という女の子の部屋。
お人形、ぬいぐるみ多め。ピンク色多め。
甘い匂い、ふかふかそうな布団、クッション。
こういうのでいいんだよ。
最上たる空気を携えた異空間に呑まれた俺が稚拙な表現を繰り広げる中、まるでヒマリも初めての異性を招いたといった様子でギクシャクしている。
とりあえずクッションに遠慮がちに座り、コンビニで買ってきた夜ご飯や飲み物をテーブルに並べた。駄菓子を沢山食べたからか食欲はあまりない──しかし、性欲ははち切れんばかりに高まっていた。
「歯ブラシは新品のがあるから~……えーと、それと~…………パジャマはわたしのがあるし~……あっ、下着……」
そんな俺をよそに、ヒマリは俺の分の下着の替えを失念していたようであたふたしている。
本来のおっさんは一週間くらい下着を代えなくても平気ではあるのだが(女子高生になっている以上そうもいかずに毎日替えている)、その挙動が可愛らしくて意地悪してみた。
「ヒマリのを貸してよ、サイズは同じくらいだし」
その言葉に、数秒の間と共にヒマリは固まる。
そして……湯気が発生するくらいに汗ばんで真っ赤になって
「ふぇっ……!!? だっ……だめだよ~わたしのなんて汚いしっ臭いかもだしっ……!!」
こんな良い匂いの持ち主の下着が汚いとか臭いとか絶対にありえないが、『むしろそれがいいんだよ!』と叫びたくなるのをかろうじて抑えた。ただの冗談なのに必死になるヒマリの姿は、この女子高生の体に宿る本来の『性獣』の本能を刺激する。
おっさんは難聴でも鈍感系主人公でもない、なので好意を寄せてくれているのはすぐに察知できる。むしろコンビニ等のレジで手が触れただけで相手が俺を好きなんじゃないかと考える──『勘違い系主人公』だ。男性時のおっさんを主人公にした物語が漫画になったら……それはもう悲惨なBADENDを迎えるだろう。
しかし、今世のこれは決して勘違いじゃない。間違いなく、ヒマリは俺に好意を寄せてくれている。
だからこそ、ここで選択肢を間違えるわけにはいかない、冷静にならなければならない。本能に従い、性獣を解放して積み上げてきたものをブチ壊すのだけは避けなければ。こんな汚れのない女の子をおっさんの欲望の餌食にするのはダメだ。
神様に誓う、絶対にヒマリを傷つけないと。
「じゃ……じゃあ~お風呂沸かしてくるねっ、アシュナちゃん……一緒に入ろう? ……あと、これお気に入りの下着なんだけどイヤじゃなければ……」
結局貸してくれるの!? しかもオキニ!? そして一緒にBATHTIME!?
神様ごめんなさい、やはり無理かもしれません。
〈続く〉