オーバーロード
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小惑星ネイアの開発室。
そこでプログラムを書いているニアスの周囲には、画面が九つも浮かんでいる。
それらが同時に書かれていた。
いくつかは既存の物を書き換えているのだが、それにしても異常だ。
アタランテは戦闘を行っているのだが、その最中に書き換えている。
「これは駄目ね。こっちは調整をすれば問題なし。こっちは--」
アタランテの動きやデータを確認しながら、プログラムを書き換えていく。
その異常さを目の当たりにしたパーシーが、ニアスを羨む。
「本物の天才は違うわね。まさか、この状況でも一からプログラムを作ってしまえるとは思わなかったわ」
口調には僅かに妬みという棘があるのだが、ニアスは気にした様子がない。
こんなの日常茶飯事だ。
「一からは用意していないわ。元からあったものを流用しているのよ」
「元から? あり得ないわ。アタランテは第三の機体だし、設計思想だって第七とは違うじゃない」
「合わせたのは機体じゃないわ。パイロットに合わせたシステムよ」
「――それこそあり得ないわ」
無名のパイロットのために、わざわざ機動騎士のシステムを用意するなど考えられない。
パーシーが不可解に思っている間に、ニアスはシステムを完成させる。
「あり得るのよ。あの子が練習に使っていたシミュレーターは、うちの特機の物だったのよ。よりにもよって、あのシミュレーターで訓練するなんてね」
「第七の特機? まさか」
ニアスが飴玉を取り出して口に入れ、疲れた脳に栄養を与えて背伸びをする。
やり遂げたという達成感と、面白いパイロットへの機体から笑みを浮かべている。
「どこで流出したのかしらね? まさか、アヴィドのシミュレーターで練習している子供がいるなんて、予想しなかったわ。良い意味で面白い子ね」
ニアスは端末を操作する。
「中尉、よく聞きなさい」
◇
『中尉、よく聞きなさい。とりあえず、システムは完成したわ』
アタランテのコックピット内で、エマは操縦桿を激しく動かしていた。
攻撃手段がないアタランテに、ゴールド・ラクーンが迫ってくる。
「でも、武器がありません。敵にレーザーブレードも効果がなくて」
特殊装甲のゴールド・ラクーンを撃破するのは、現時点では不可能と思われた。
しかし、開発者であるニアスが小さくため息を吐く。
本当に残念そうにしていた。
『あるわよ。非常に残念だし、第三が関わった機体に破壊されるのは癪だけどね』
迫り来るゴールド・ラクーンの振り下ろしてきた大斧を紙一重で避けつつ、エマはその方法を尋ねる。
「教えて下さい!」
『カスタムはしているけど、ベースはラクーンよ。間接回りは他の機体と変わりがないの。それでも頑丈に仕上げているけど、今のアタランテになら破壊できるわ。さっさと本気を出しなさい』
本気――オーバーロード。
「で、でも」
過負荷状態で戦えば、関節を破壊できると教えられるが、以前のテストで失敗したエマは僅かにためらう。
その様子を見抜いたニアスが言う。
『安心しなさい。その機体のフレームとシステムは、ある機体をベースにしているわ』
「ある機体って」
『――アヴィド』
アヴィドにも使用されたレアメタルのフレーム素材を使用され、アタランテは回収された。
システム面も、エマのためにアヴィドの物を流用している。
「アヴィドって」
『姿形は違っても、その子はアヴィドの兄弟――妹かしらね? 信じて良いわよ。あなた程度では、破壊すること何てまず無理だわ』
馬鹿にされた物言いだったが、そこには「どれだけ暴れても壊れない」というニアスの保証があった。
エマは覚悟を決める。
「信じますよ」
『必要ないわ』
エマの期待を受け取らないニアスだが、モニターの向こうでは微笑しているように見える。
「――アタランテ、力を貸して」
エマはコックピット内にあるオーバーロード状態にするレバーを全力で引く。
そこにためらう気持ちは一切なかった。
アタランテが過負荷状態に震えるが、これまでと違って耐えている。
レアメタルのフレームが、暴走する動力炉を押さえ込んでいる。
関節から放電現象が起きるが、それは今までよりも少ない。
だが、これまでよりも無駄なくエネルギーが機体に伝わっていた。
ツインブースターが黄色い光を放つと、これまで以上の重力をコックピット内で感じる。
「いける!」
黄色い光を放つアタランテが、ゴールド・ラクーンに向かう。
◇
「何なのよ、こいつは!?」
ゴールド・ラクーンのコックピット内で、シレーナは信じられないと驚いていた。
徐々に動きが良くなるアタランテも信じられなかったが、特殊装甲のおかげで一方的に有利に戦いを進められていた。
それなのに、アタランテが発光したかと思うとスピードを上げた。
「データよりも速い。いや、使いこなしているの?」
依頼主から受け取ったデータでは、過負荷状態の事も知らされていた。
しかし、データよりも厄介極まりない。
多少スピードが速くなったくらいでは、対処可能だと思っていた。
しかし――。
「センサーが追いつかない!」
――ゴールド・ラクーンの火器管制システムが、アタランテを捉えられない。
遠距離からの攻撃では、仕留めきれない。
しかし、近付けばもっと厄介だ。
大斧で斬りかかるが、簡単に避けられてしまう。
「生身は凡人以下でも、パイロットとしては本物の化け物ね」
エマの姿を思い出すが、まだあどけなさの抜けない女の子がアタランテという凶悪な機動騎士を操縦しているとは信じられなかった。
アタランテは脅威だが、使いこなせるパイロットも同じく脅威である。
「ここで潰しておかないと、面倒になりそうね」
シレーナがライフルを撃ち尽くしたため放り投げると、サブマシンガンに持ち替える。
牽制を行い、その後に斬りかかるとアタランテが慌てて避けていた。
「やはり、戦闘経験が足りないわね!」
機体もパイロットも凄いが、戦闘技術は自分が勝っている。
攻撃手段もないため、現状ではシレーナが優勢だろう。
ゴールド・ラクーンが左腕に持った大斧で斬りかかると、アタランテが体当たりをしてくる。
「こいつ!」
『捕まえた!』
接触したことで回線が開き、エマの声が聞こえてきた。
アタランテが加速して、シレーナもコックピットで重力を感じる。
「こ、このぉ!」
アタランテを破壊しようと伸ばした左腕が掴まれる。
そのまま、アタランテはゴールド・ラクーンの左腕をもいでしまった。
「パワーまで化け物か」
冷や汗をかくシレーナだったが、そこに部下たちが駆けつけてくる。
『団長、撤退して下さい!』
数十機の機動騎士から砲撃を浴びるアタランテは、下がって逃げ回る。
「時間をかけすぎたわね。本隊に合流するわ」
(私らしくもない。熱くなりすぎたわ)
反省して本隊と合流しようとするが、部下たちからは予想していなかった返答がされる。
『本隊は壊滅しました』
「――何ですって?」
ダリア傭兵団の規模だが、一千隻は超えている。
全てが精鋭でもないため、頼りになるのは二百隻くらいだろう。
それでも、一千隻の艦隊がやられたというのが信じられなかった。
「一体誰が本隊をやったの?」
『バンフィールド家です。奴ら、出撃して本隊を攻撃したんです。生き残ったのは五十隻程度です』
「潜んでいた本隊を探り当てたですって」
五十隻。その内、何隻もが被弾しているため無傷の艦艇が少ない。
シレーナは奥歯を噛みしめる。
(チェンシー以外にも厄介な奴がいたようね。名のある騎士は来ていないと聞いていたけど、甘く見すぎていたわ)
シレーナは自分の判断ミスを悔いるが、団長であるため命令を下す。
「――撤退よ」
ゴールド・ラクーンを撤退させるが、最初こそ追いかけてきたアタランテが動きを止める。
追撃してこないアタランテを見て、シレーナは胸をなで下ろすと同時に苛立つ。
「いつか必ず仕留めてあげるわ。それまで、精々騎士ごっこを楽しむのね」
吐き捨てて逃げ出す自分に、シレーナは悔しさがこみ上げていた。
◇
退いていく敵を見ながら、エマはコックピット内で上官に噛みついていた。
「どうして追撃しないんですか! あいつは――あの女は、大尉さんを」
相手はクラウスだ。
敵の主力と思われる艦隊を発見、その後に全滅させていた。
『緊急出撃で物資も少ない。追撃すれば、我々にも被害が出る』
「でも!」
『――すぐにネイアに帰還する。君も味方の艦と合流しなさい』
エマは項垂れた。
アタランテのオーバーロード状態が解除されると、その場で動きを止める。
右手には、ゴールド・ラクーンの左腕が握られている。
「あたしのせいだ」
自分が弱いために、知り合いの騎士を失ってしまった。
その責任は自分にあると口にすると、モニターの向こう側にいたクラウスが強い口調で叱責してくる。
『君は――貴官は勘違いをしている。たかが一騎士に、大尉が死んだ責任があると思うのか?』
「でも! あたしがもっと強ければ、大尉さんを助けられたんです! 他の皆さんだってきっと!」
『可能性云々の話はしていない。アタランテの回収を命じたのは私だ。派遣する部隊を決め、君を迎えに行かせた。責任があるとすれば、それは私にある』
エマが俯いて返事も出来ずにいると、クラウスは最後に一言だけ呟く。
『君はよくやった』
◇
エマとの通信を終えたクラウスは、艦橋にいた軍人と話をする。
相手は艦長だ。
「若いですね。味方を失い激情に駆られていますよ。単機で追撃しなかったのは評価できますね」
目頭を押さえたクラウスは、部下である大尉を失ったことを憂いていた。
「大事な部下を失ってしまいました。彼女ではなく、私の責任ですよ」
艦長はクラウスの話を聞いて、何度か頷く。
「当然です。あなたは騎士長でこの艦隊の責任者ですからね」
冷たい言い方にも聞こえるが、艦長は続ける。
「だが、あなたの判断のおかげで、第七は被害を減らすことが出来ました。少ない被害で潜んでいた敵艦隊も撃破しています。これ以上を望むのは、欲張りすぎですよ」
言葉にはしないが、クラウスは失った以上の成果を出していると伝えたいのだろう。
小惑星内への陸戦隊と騎士の投入。
その後、艦隊を率いて隠れていた傭兵団の本隊を撃退。
クラウスは顔を上げる。
「出来る事をしただけです。それに、騎士長というのは、自分には過ぎた地位でした」
「謙遜ですか?」
「本音ですよ」
艦長は肩をすくめると、先程のパイロット――エマについて尋ねる。
「それで、騎士長殿は逆らった騎士にどんな罰を与えるのですかね?」
上官に対して逆らったのだから、本来は罰があってしかるべきだろう。
クラウスは思案する。
(今のあの子には、何もない方が辛いだろうな)
知り合いを失い、実力不足を嘆いているようだった。
それならば、と。
「今回の任務中は、特別メニューで訓練をさせておきますよ」
「疲れさせて、避けないことを考えないようにするつもりですか? 甘やかしていますね」
「何のことでしょうね」
とぼけたクラウスは、味方の損害を調べるため周囲に映像を投影する。
被害は少ないとは言え、戦死者は出ている。
そこには、自分を慕っていた大尉の名前も記載されていた。
◇
数日後。
戦闘により発生したデブリの回収も終わらない内に、バンフィールド家の艦隊は戦死者を弔うために艦隊を出していた。
儀礼用の制服に着替え、戦死者たち――仲間たちに敬礼を送る。
エマも味方の艦に乗せてもらい参加しており、周囲には他部隊の騎士たちが並んでいた。
「聞いたか? 攻撃してきた連中は、傭兵組織の幹部組織だとさ」
「ヴァルチャーだったか? 傭兵団の組合の幹部となれば、率いるのが数千隻っていうからな」
「帝国にまで喧嘩を売るとか、馬鹿な奴らもいたよな」
捉えた敵兵士たちを尋問し、所属などが徐々に明らかになっていく。
エマは静かに聞き耳を立てていた。
騎士たちが襲ってきた集団の団名を口にするのを待っていた。
「今回戦った連中は、ダリアって傭兵団だとさ」
「第七に侵入してまで何をするつもりだったんだ?」
「うちの新型を破壊するとか何とか聞いたな」
既に機密事項扱いになっており、アタランテを破壊するためダリアが第七に侵入したという話は通達されていない。
しかし、人の口に戸は立てられず、味方内で噂が広がっていた。
「わざわざ団長が乗り込んできたらしいぞ」
「団長って有名人なのか?」
「余所では名が知れ渡っているはずだ。確か――シレーナとか、何とか。余所の戦場では暴れ回っている奴だ」
「偽名じゃないか?」
「しかし、傭兵団がうちに喧嘩を売るとはね」
「うちは傭兵団を雇わないから、向こうからすれば敵に見えるんだろ」
バンフィールド家は傭兵団の事情に詳しくない。
これは、傭兵団を雇わず、自分たちの軍事力だけで問題を解決してきたからだ。
エマは静かに名を呟く。
「ダリア傭兵団のシレーナ」
(いつか必ずあたしが――)
若木( ゜∀゜)ノ「苗木ちゃんは考えたの。バリバリ宣伝しつつ、アニメに出たいな~って偉い人にアピールすれば夢は叶うって」
ブライアン(; ・`ω・´)「心配になって様子を見に来てみれば、最低な発想で草も生えません」
ブライアン(*´ω`*)「まあ、若木さんは植物なんですけどね」
若木○(#゜Д゜)=( #)≡○)Д`)・∴'. ブライアン「酷い!!」
若木(# ゜Д゜)「私はまだ瑞々しい苗木だから! そんなわけで【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です10巻】が好評発売中よ。【アニメ10話】も今日から放送されるから、みんな楽しみにしていてね!」