第四話:聖女の計画
【※特報!】
2024年5月25日にオーバーラップ文庫様より、『断罪された転生聖女は、悪役令嬢の道を行く!』が書籍化することになりました!
詳細はこのページ下部の『あとがき』に書いてあります!
『三百年前の物語』についても情報解禁しているので、どうかぜひ最後まで読んでいってください!
無事に中堅戦を勝ち抜いたルナは、
「い、いやぁ……ラッキーだったなぁ!」
ぎこちない笑みを浮かべながら、ローたちのもとへ戻っていく。
彼女は現在15歳、花も恥じらう乙女。
大衆の面前でド派手なくしゃみをしたことは、あまつさえそれで相手を場外へ吹き飛ばし、珍妙な勝利を収めたことは、誰にも触れてほしくなかったのだ。
(そう、あれは魔法の暴発! 私のくしゃみは一切関係ない!)
実況解説の誤解に全力で乗っかり、強引に押し通そうという構えである。
「お疲れ、ルナ。ナイスファイト」
「魔法の暴発……? ケイティの魔法操作は、完璧なように見えましたが……」
「これで勝ち越しですね!(さ、さすがは聖女様、ただのくしゃみが大嵐だ。本当に全てが規格外なんだなぁ……っ)」
「ちっ……(役立たずめ、これではルナの真の実力がわからんではないか……っ)」
その後、副将戦はウェンディが、大将戦はサルコが完勝を収めた。
これにより聖女サルコと愉快な仲間たちの戦績は4勝1敗、次のラウンドへコマを進める。
ちなみに……武闘会の目的は、学生の戦いぶりを教師が観察し、聖女の転生体を見つけ出すこと。たとえ先に3勝を収めていても、残りの試合は最後まで実施されるのだ。
午前の部が全て終了し、これより一時間のお昼休憩となる。
「俺はカースの様子を見てくる。あれでも一応、我が隊の副長なんでな」
レイオスはそう言って、医務室の方へ向かっていった。
「では一時間後、時計塔の下に集合してくださいまし。遅刻は厳禁でしてよ!」
サルコが大きな声でそう言うと、レイオスは振り返らず片手を挙げて応えた。
「それじゃ、お昼ごはんにしましょう!」
お腹ペコペコの聖女様が先導し、一年C組へ移動を開始する。
教室までの道中、
「しかし、凄い人ですねぇ……」
ルナは物珍しそうに周囲を見つつ、そんな感想を口にした。
彼女の言う通り、聖女学院内には多くの生徒とその保護者たちの姿が目に付く。
「武闘会はけっこう大きめのイベントだからねー」
ローは軽い調子で答え、
「この戦いを制すれば、家名に箔が付きますもの。当の学生はもちろんのこと、その御両親も本気で取り組んでいますわ」
サルコは貴族的観点で解説し、
「帝国も王国も、そういうところは同じなんですね」
帝国の名門貴族であるウェンディは、頬を掻きながら苦笑する。
そうしていつもの仲良し四人組が教室に向かっていると、前方から黒服の集団がやってきた。
何やら物々しい空気を放つ一団。その先頭に立つのは、世界を股に掛ける超巨大財閥の総帥――クレバー・コ・レイトンだ。
「サール、見ていたぞ! 素晴らしい活躍だったじゃないか!」
満面の笑みを浮かべたクレバーは、両手をバッと大きく広げ、
「お、お父様……!?」
サルコが「うげぇっ」と口を歪ませ、
「お嬢様、初戦突破おめでとうございます!」
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
黒服の使用人たちが、万雷の拍手を打ち鳴らす。
「おい、見ろよあれ、クレバー・コ・レイトンだぞ……っ」
「レイトン侯、噂に違わぬ親馬鹿っぷりですわね……」
周囲から飛ぶ奇異の視線を受け、サルコの顔が赤く染まっていく。
「お、お父様、こういう目立つことはやめてくださいまし!」
「はっはっはっ、何を恥ずかしがっておるのだ! そんなことよりも、これを見てくれ! 今ちょうど刷り上がったのだが、中々よく出来ているだろう?」
クレバーが取り出したのは、とある新聞記事。
『号外:我が娘サール・コ・レイトン、武闘会にて華麗な初勝利を飾る!』
サルコの晴れやかな笑顔がデカデカと載ったそれは、娘への愛情がこれでもかと詰められた提灯記事だ。
「こ、こんなものを作って、どうするおつもりなのですか!?」
「それはお前、配り歩くに決まっているだろう?」
「絶対にやめてくださいまし!」
耳まで真っ赤にしたサルコと楽しそうなクレバーが、てんやわんやの大騒ぎを繰り広げる中、
(あれって……クレバーさん、だよね……?)
ルナは聖王国で取り交わされた、レイトン財閥との交渉を思い出す。
【ようこそ、聖王国へ。私は唯一王であられる聖女様の代理、シルバー・グロリアス=エル=ブラッドフォールンハートです】
【どうも初めまして、レイトン財閥総帥クレバー・コ・レイトンです】
かつての記憶を掘り返しながら、サルコとクレバーの顔をジッと見比べる。
(うん……似てる。瞳の色もそうだし、目元とかそっくりだ)
ルナが一人納得していると、サルコがコホンと咳払いをした。
「みなさん、申し訳ございません。今日は父と昼食を取るので、失礼させていただきますわ。また一時間後、時計塔で合流しましょう」
彼女はそう言うと、父の背中をグイっと力強く押した。
「お、おい、どうしたんだサール? パパにお友達を紹介してく――」
「――お父様、あちらに聖女学院の食堂がございますわ! 今日はせっかくの機会なので、あちらにしましょう!」
娘を溺愛する父。
父の溺愛っぷりを恥ずかしがる娘。
傍から見れば、とても微笑ましい光景なのだが……。
サルコは思春期の真っ只中。
所謂お年頃の彼女にはこれが、恥ずかしいことのように思えてしまった。
ただもちろん、クレバーのことを本心から嫌ってはいるわけではない。むしろ人として尊敬しているぐらいなので、このプチ反抗期のようなものは、そのうち終わりを迎えるだろう。
「ふふっ、仲のいい親子だなぁ」
「ほんとそれなー」
ルナとローが率直な感想を口にし、
「……いいなぁ、サルコさん……」
どこか寂しげな顔のウェンディが呟くと同時、
「ウ゛ェ゛ン゛ディ゛ー!」
「おーい、こっちこっちー!」
遥か前方から、大声を張り上げる巨漢と活力に満ちた美しい貴婦人が駆け寄ってきた。
「お、お父さん、お母さん!?」
その正体はウェンディの両親、グリエル・トライアードとテーラー・トライアード。
愛娘の晴れ舞台を見るため、帝都より遠路はるばるやってきたのだ。
「ど、どうして……『その日はお仕事だ』って言ってたのに……っ」
「十日ほど徹夜して、死ぬ気で片付けてきた! 娘の晴れ舞台、なんとしてもこの眼で見んとな!」
「ふふっ、私もたくさんお手伝いしたんだから」
「も、もう……そんな無茶したら、体を壊しちゃうよ?」
口ではそう咎めながらも、ウェンディの頬はわかりやすく綻んでおり、嬉しさを隠し切れていない。
しかし、それも無理のないことだろう。
彼女はこれまで、普通の人よりもずっと孤独な人生を送ってきた。
幼少期に母が呪いで倒れ、父は家を守るため働き詰め。
そのうえ自分は、『皇帝お抱えの秘密諜報員』として、過酷な訓練を受ける毎日。
そんな生活をずっと送ってきたため、ウェンディは愛に飢えているところが――甘えたなところがあるのだ。
「ところでウェンディ、そちらの二人はお友達……ぬぅ!? その銀色の髪はもしや……キミがルナくんか!?」
「は、はい。はじめまして、ルナ・スペディオと申します(この人がウェンディのお父さん、声も体もリアクションも、全てが大きいなぁ……っ)」
ルナは貴族令嬢らしく、優雅な所作で挨拶をする。
「おぉ、やはりそうだったか! 私はグリエル・トライアード、この子の父親だ!」
短く自己紹介を済ませたグリエルは、勢いよくババッと頭を下げる。
「まずは――ありがとう。妻とウェンディから、ルナくんが呪いを解いてくれたと聞いている。キミのおかげで、うちに再び笑顔が戻った。本当に……本当にありがとう!」
「いえいえ、どうかお気になさらず」
ルナがそう言うと、テーラーがひょっこりと顔を出す。
「ルナさん、お久しぶり。お元気そうで何よりだわ」
「あっテーラーさん、お体はもう大丈夫ですか?」
「えぇ、おかげさまですっかり元気になっちゃった」
テーラーが微笑むと、グリエルが「うんうん」と頷いた。
「最近の妻は、元気過ぎて困っているぐらいだ! ドアノブを握り潰すは、食材ごとまな板を斬るは、階段を踏み抜くは――」
「――もうあなたったら、ウェンディのお友達の前で、恥ずかしい話をしないでください!」
テーラーが軽く手を振り、グリエルの背中をパシンと叩いた。
すると次の瞬間、
「む、ごぉ!?」
途轍もない衝撃波が吹き荒れ、2メートルを超す巨体が吹き飛んだ。
地面と水平に進んだ彼は、そのまま本校舎に背中を強打、重力に引かれてビタンと落ちる。
「あ、あなた!? 私、また力加減を間違えちゃって……ごめんなさい」
「はっはっはっ、これぐらいどうということはない! お前の元気が何よりだ!」
愛妻家の彼は、頭からダラダラと血を流しながら豪快に笑う。
かつて呪いに倒れたテーラーは、ルナのお手製エリクサーを飲み、完全復活を遂げたのだが……。
聖女の魔力を体内に取り入れたことで、全身の細胞が異常なほどに活性化。
その結果、人の領域を超えた剛力を手にしてしまい……中位の魔獣程度であれば、素手で縊り殺せるほどになっていた。
「っと、そうだウェンディ! せっかくだから、みんなで一緒にお昼ごはんを食べよう! 母さんが腕によりを掛けて、お弁当を作ってくれたんだ!」
グリエルはそう言って、大きな重箱を取り出した。
しかし、テーラーがすぐに待ったを掛ける。
「あなた、待ってちょうだい。仲のいいお友達がいるのだから、そっちを優先した方がいいんじゃないかしら?」
「ぬぉ!? 私としたことが、とんだ早とちりを……っ。すまん、ウェンディ! 今のは忘れてくれ!」
「えっと、その……」
困り顔のウェンディが視線を泳がせていると、ルナとローが柔らかく微笑む。
「ウェンディさん、私達のことは気にしないでください」
「そーそー、家族水入らずで楽しんできなよ」
「あ、ありがとうございます……!」
ウェンディは大輪の花が咲いたように微笑み、
「ルナさん、ローさん、また後ほど時計塔で落ち合いましょう」
父と母と肩を並べて、オープンテラスへ向かって行った。
サルコとウェンディがいなくなり、ポツンと取り残されたルナとロー。
「そう言えば……うちのお父さんとお母さんは?」
「カルロ様は聖王国の開発事業に励むあまり、持病のぎっくり腰をぶり返され、現在は床に臥せております」
「えっ、それ大丈夫なの?」
「はい、問題ありません。ただ……ルナ様のご勇姿を見たいと駄々をこねられ、這ってでも武闘会へ向かおうとしたため、トレバス様が荒縄でベッドに縛り付けているそうです」
「そ、そうなんだ……っ」
ルナは「お父さんらしいなぁ」と苦笑しつつ、
「さて、私達もお昼ごはんにしよっか!」
「はい、そうですね」
ローと一緒に一年C組の教室へ向かうのだった。
■
ルナたちがそれぞれの形で昼食を取っている頃――レイオスは一人、医務室を訪れていた。
「すみません、カース・メレフという生徒はいますか?」
「失礼ですが、お名前と所属を伺っても?」
「聖騎士学院のレイオス・ラインハルトです」
彼は学生証を提示し、受付の女性は「確かに」と検めた。
「カースさんでしたら、15番のベッドでお休みになられています」
「ありがとうございます」
清潔なベッドがズラリと並ぶ中、部下が体を休めるところへ向かい、カーテン一枚の簡素な仕切りをシャッと開ける。
するとそこには、仰向けに寝たカースの姿があった。
「おい、生きてるか?」
「……なんで見舞いが自分だけやねん。普通ここは、ルナちゃん・ローちゃん・サルコちゃん・ウェンディちゃんのスペシャルハッピーセットやろ……」
カースはパチリと目を開け、心底不満げな顔でボヤく。
「なんだ、存外に元気そうだな」
「まっ、頑丈なのは、ボクの売りやからね」
カースはそう言いながら、ひょいと上体を起こした。
模擬刀でしこたま殴られ、パンパンに腫れた顔は、今やすっかり元通り。
回復魔法による治療のおかげで、完全復活を果たしている。
「ほんで、その様子やと勝ったんやろ?」
「当然だ」
「そりゃよかった。ボクも一肌脱いだ甲斐があったいうもんや」
彼はベッドから立ち、グッグッと体を伸ばす。
「よしゃ、そんならメシでも食いに行こか! 戦い疲れて、もうお腹ペコペコやわ!」
「戦い疲れた……? お前はボコられていただけだろう」
「ひどっ!?」
他愛もない話をしながら、聖騎士学院の売店へ移動。
お昼時のピークを逃しているせいもあってか、選り好みできるほどの種類はなかった。
レイオスは塩むすび、カースは惣菜パン。
思い思いの品を購入し、近くの木陰で腰を下ろすと、競技場がにわかに沸き立つ。
「なんだ、えらく騒がしいな」
「誰ぞ有名人でも来はったんやろか?」
二人が視線を向けるとそこには、エルギア王国宰相ニルヴァ・シュタインドルフの姿があった。
「なるほど、宰相閣下の挨拶か。そう言えば、予定表に書いてあったな」
「あの人、ほんまよぅ働きはるなぁ。王族の警護・貴族との折衝・各種行事の挨拶……ボクやったら、一日と持たずに逃げ出しとるわ」
レイオスとカースがそんな話をしていると、実況解説の大きな声が聞こえてきた。
「皆様、ここで『超特別ゲスト』の紹介です! 聖女様の代行者にして陰の英雄、その名も――シルバー・グロリアス=エル=ブラッドフォールンハートォオオオオ!」
魔法の煙幕がボフッと上がり、その中からプレートアーマーを纏った偉丈夫が現れた。
それと同時、観客席から割れんばかりの歓声があがる。
「きゃぁああああ……!」
「う、うそ……本物!?」
「シルバー様、こっち向いてくださーい!」
シルバーは観客たちの声に軽く手を振って応え、隣のニルヴァと旧交を温めるように握手を結ぶ。
「ニルヴァ殿、お招きいただき光栄です」
「シルバー殿、ようこそいらっしゃいました。わざわざ足を運んでいただき、感謝の言葉もございません」
実況解説はその様子を眺めつつ、ちょうどよい頃合いを見計らって話を振る。
「いやしかし、さすがはシルバー様、途轍もない人気ぶりですね! ちなみに……どうして今日は、この武闘会へいらしてくださったのでしょうか?」
「実は先日、ニルヴァ殿から招待状をいただきましてね。この日はたまたま時間の都合がついたので、ちょっと見学に来させてもらったのですよ」
シルバーの返答を受け、実況解説はさらに踏み込んだ質問する。
「あなたがここへ足を運ばれたということはつまり……この中に聖女様の転生体がいらっしゃる! そういう認識で、よろしいのでしょうか!?」
「さて、どうでしょうか。御想像にお任せします」
シルバーは軽くそういなし、
「ははっ、さすがにガードがお固いですな」
ニルヴァは穏やかに笑った。
超ビッグゲストの登場に沸き立つ競技場。
カースはそれを遠目に見ながら、焼きそばパンを口へ運ぶ。
「うわっ、シルバーさんやん。こりゃまたとんでもない大物がいらっしゃらはったなぁ」
男にまったく興味がない彼の反応は、周囲のそれと比較して非常に軽いものだった。
一方、
(これは好機だ……!)
予期せぬシルバーの登場を受け、レイオスは素早く動き出す。
食べかけの塩むすびを口へ詰め込み、早足で聖女学院の方へ向かった。
「えっ、ちょ……レイオス、どこ行くん!?」
「悪いな、急用ができた」
「嘘ぉ……。ボク、一人ごはん苦手やのに……っ」
ポツンと取り残されたカースは、しょんぼりとしながら、昼食を食べるのだった。
(ルナ、どこだ!? どこにいる!?)
レイオスが聖女学院の本校舎前を走っていると、見知った金色の縦ロールが目に付いた。
「サルコ、ちょうどいいところに! ルナはどこへ行った!?」
「ルナですか? あの子たちとは途中で別れたので、ちょっとよくわかりませんわ」
「そうか、邪魔したな」
レイオスは再び捜索に戻り、今度はウェンディ一家を発見する。
「おいウェンディ、ルナはどこだ!」
「ルナさんでしたら、多分C組の教室かなと――」
「C組だな!」
レイオスは話を最後まで聞かず、大急ぎで駆け出した。
聖女学院の正門を抜け、本校舎へ入り、一年C組の教室へ向かう。
「ルナは――ルナ・スペディオはいるか!?」
勢いよく扉を開け放つと同時、黄色い声がワッと湧きあがる。
「きゃぁー! お呼び出しですわー!?」
「なんという熱量……レイオスさんって、まさか……っ」
「ルナさんのことが、お好きなのかしら……!?」
あらぬ誤解と甲高い声が飛び交う中――そこにはなんと、ルナ・スペディオの姿があった。
「る、ルナ……!?」
「は、はい」
近くまで歩み寄り、彼女の顔をジッと見つめる。
美しい白銀の髪・透明な空色の瞳・雪のように白い肌、そこにいるのは間違いなく、ルナ・スペディオだ。
「どうしたんですか、レイオスさん……?」
彼女はキョトンと目を丸くし、不思議そうな表情を浮かべている。
「……っ」
レイオスはすぐに教室を飛び出し、廊下の大窓から競技場を食い入るように見つめる。
そこにはシルバーが立っており、こうしている今も演説を行っていた。
「……違う……ッ」
ルナとシルバーが同じ時間、同じ場所に存在している。
これにより、ルナ=シルバー=聖女の図式が崩れた。
「あの……大丈夫ですか? 最近のレイオスさん、ちょっと変ですよ?」
「……なんでもない、忘れてくれ」
レイオスはそう言って、教室を後にするのだった。
■
レイオスが一年C組の教室から退出した直後、ルナは女子トイレへ移動し、個室の扉をカチャリと閉める。
「ふぅ……疲れた」
彼女は銀色のウィッグを取り去り、<次元収納>に収納。
「あぁ、チクチクする」
黒い髪を手櫛で整えつつ、主人のもとへ<交信>を飛ばす。
(――ルナ様、予想通り、レイオスがやってきました)
(バレなかった?)
(はい、まったく気付いておりません)
(そう、よかった)
ローの報告を受け、ルナはホッと安堵の息を吐く。
①シルバーの鎧を着て、特別競技場に立つ。
②それを見たレイオスはすぐに自分を探し始めるので、変装したローに上手くやり過ごしてもらう。
③ルナとシルバーが同時に存在することで、レイオスの立てた推理に矛盾が発生し――聖女バレ回避!
これがルナの考案した計画の全容だ。
武闘会の場を利用するにあたり、今夜ニルヴァとの会食に臨む必要が生まれたのだが……聖女バレを回避するためならば、それも止む無しと判断した。
(しかしルナ様、この行為にはいったいどういう意味が……?)
(えーっと、その……『変態対策』、的な?)
(なるほど、そういうことでしたか)
ローは納得げに頷く。
お弁当を取りに教室へ向かった直後、主人は『この後すぐにレイオスさんが来るはずだから、私の変装をしてやり過ごして!』と言い、銀色のウィッグを置いてどこかへ走り去って行った。
正直、ルナの意図するところはまるで掴めなかったが……。
主人がわけのわからないことを言い出すのは、何もこれが初めてではない。なんなら日常茶飯事と言える。
ローは一流の侍女として、その命令を受託し、完璧に仕事をやり遂げた。
(ところでルナ様、この後の御予定は?)
(中庭で一緒にごはん食べようよ。私もほどほどに切り上げて向かうからさ)
(ほどほどに切り上げて……?)
(あっ、あ゛ー……気にしないで、こっちの話!)
(承知しました。では、また後ほど)
<交信>切断。
個室から出たローは、鏡に映る姿を見て、ハッと気付く。
「っと、瞳の色も戻しておかきゃな」
右手をスッとかざせば、魔法で変えていた瞳が空色から漆黒へ戻る。
そうして緊急ミッションをこなした万能メイドは、主人と合流するために中庭へ移動するのだった。
■
聖騎士学院の屋上に立ったレイオスは、小さく横へ頭を振る。
「ふぅ……やはり俺はどうかしていた」
自分の予想が外れたにもかかわらず、その顔はどこかすっきりしている。
「聖女様は唯一絶対にして完全無欠の存在。彼女が笑えば花が咲き、彼女が悲しめば天が泣き、彼女が怒れば大地がいきり立つ、まさに女神のような御方。ルナのような――あんなポンコツ聖女モドキなわけがない!」
本日は快晴。
世界に大きな変わりはなく、レイオスの目はいつも通り――『節穴』だった。
【※特報!】
2024年5月25日にオーバーラップ文庫様より、『断罪された転生聖女は、悪役令嬢の道を行く!』が書籍化することになりました!
イラストレーターはへりがる先生です!
これも皆様のおかげです、本当にありがとうございます!
書籍版第一巻には、Web版の第一部と第二部を収録。
書籍版には大量の加筆はもちろんのこと、Web版では語り切れなかった物語を――新規書き下ろし『三百年前の物語』を収録!
これは文字通り『三百年前の聖女パーティの冒険』を描いた物語で、『2万文字を超える大長編』となっております!
聖女様の三百年前の日常・黒歴史の執筆秘話・聖女様の戦い(無双)、他にも多数のエピソードがありますが、その内容は秘密です。
もし気になられた方は、書籍版第一巻を手に取っていただけると幸いです!
そしてこの三百年前の物語は、書籍版で『継続連載』していきます!
第二巻・第三巻と出すことができれば、巻末に三百年前の聖女パーティの冒険が続きます。
しかもこれ、短編をいくつも収録する形ではなく、三百年前の物語を『地続き』で収録します。
つまり、Web版の本編+三百年前の物語、一冊で二本の物語を読めるということです!
そしてさらにへりがる先生のイラストが、多数収録されています!
(黙っていれば)絶世の美少女ルナ、クール系のロー、お嬢様系のサルコ、みんなとても可愛いらしいです!
さて、このように書籍化が決まったのは、とても嬉しいのですが……正直、ここからが戦いの始まりです。
皆様、ニュースやまとめサイトなどで、『出版不況』という言葉を聞いたことがあるかと思います。
現在、小説の売上は年々下がり続け、ライトノベル市場も縮小。
小説家になろうから書籍化された作品の売り上げも、ここ数年でかなり落ち込んでいます。
楽しみにしていた作品が打ち切られ、続きを読めなかったこと、皆様も一度は経験したことがあるかと思います。
商業の世界は過酷なマラソンゲーム。
「で、何部売れたの?」という、数字がモノを言う世界です。
売れなければ、そこで終わり。
現実は厳しく、とにかく本が売れなければ、お話になりません。
私はこの一年、ひたすら聖女様の物語を考え、本作が売れるための努力を続けて来たつもりです。
ただ悲しいことに、私一人の力なんか、たかが知れております。
どれだけ声を張り上げて、必死に宣伝したところで、その効果は微々たるもの。
しかし私は、この作品が売れて『人気作』になってほしい!
『漫画』になって、ルナたちに自由に動いてほしい!
『アニメ』になって、ルナたちに映像と声がついてほしい!
そこで考えました。
どうすれば、売れるのか?
どうすれば、聖女様の物語をもっとたくさんの人に知ってもらえるのか?
考えに考えを重ねた結果、私が辿り着いたのは――読者の皆様でした。
お願いしますッ!
どうか私の作品を友人や知人に紹介していただけないでしょうか!?
作品が売れる際、口コミというのは凄まじい力を持ちます!
作者にはない、読者だけが持つ力。
皆様が持つそのお力を、どうかお貸しください!
本当に、本当によろしくお願いします……!
そして既にAmazonでは、『断罪された転生聖女は、悪役令嬢の道を行く!』の予約が始まっています。
読書用・布教用・観賞用・保存用……非常に便利な一冊となっておりますので、ぜひ予約してみませんか!?
――いやぁ、よかった……っ。
心優しい皆様のご協力、感謝いたします!
というわけで皆様、これまで応援していただき、本当にありがとうございました!
皆様のおかげで、この作品を書籍化することができました!!
今後ともどうか、よろしくお願いいたします!!!