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62)大河の白ウサギ

「助けてえええくださあああああい」


声の方に急ぐと見えてきたのはワニに囲まれたウサギの獣人だった。尻餅をついて後ずさっているが、ワニがジリジリと距離を詰める。


と、一緒に駆けて来たシーラが「おや?」と不思議そうな声を出す。


「クロト、あのワニ殺さずに退けられるか!?」


「? なら、術で脅してみるか?」


「にゃあ!」


先ほどまでアーヴァントに抱かれていたフレアが、知らぬ間にクロトたちと並走している。


クロトが手甲に力を込めると、それに反応して赤く輝き出すフレア。


「行け!」


手甲の輝きに呼応するように炎の塊となったフレアが加速する。ワニたちの前まで行くと獣人ウサギの周囲を周り、炎の壁を創り出す。


「えっえっなにこれ!? なにこれえええ!?」


ワニよりも驚いている獣人ウサギ。


回転が早まり炎も大きくなると、流石にワニも怯み始める。クロトたちが辿り着く頃には、1匹、また1匹と河に戻っていく。


ウサギは気絶していた。


「あのワニ、なんかあるのか?」


他のメンバーがやってくるのを待つ間に、気絶しているウサギを適当な芝生の上に寝かせながらシーラに聞いた。


「私も確信を持って言った訳ではないが、あのワニ、随分青かったろ?」


確かに。本で見たワニは緑だったな。


「恐らくだがブルーブゲータという種類だと思うんだ。見た目の割に温厚でな。捕獲も簡単な上、珍しい青い革のために乱獲されて、数がとても少なくなっていると読んだことがある」


「詳しいな」


「可愛いものは好きだからな。ブルーブゲータも愛読書に載っていた」


「かわ、、、いい?」


「可愛いだろ?」


そんな話をしていると、アメリア達も追いついて来たので状況を説明する。


アメリアも「ブルーブゲータ! 見たかった!」と言っていたのは意外だったが、乱獲されて本当に希少なのだそうだ。


無論、現在狩猟は禁止され密漁は最低でも両腕叩っ斬られるらしい。最高はもちろん死罪。というか2択なんだと。


「ううん」


ようやく気がついた獣人ウサギ。


「あれ? 私どうなって、、え? だれ!?」


ウサギらしいジャンプ力で文字通り飛び上がってから近くにあった背の低い木に身を隠す。全然隠せてないけどな。特に耳。


こちらにも事情を説明し助けたことを理解してもらうと、ようやくちょこちょこと出て来た。


「すみません! 助かりました! 私はラビッター族のクィッチと言います!」


クィッチはぺこりと頭を下げる。


「なんであんなところでワニに襲われていたんだ? あれは比較的おとなしい種類のはずだが、、?」


シーラが聞くとなんかモジモジしている。


「まぁちょっとした事故というか、チャレンジ精神のなせる技というか、、、」と、ふわふわしたことを小さく呟いている。


どうしたものかと思っていると、河の向こうのほうから「おーい!」と呼ぶ声。


声のしたほうから一隻の船がやってくるところだった。


乗っているのはクマの獣人とクィッチと同じラビッター族のようだ。


クマの獣人がギッコギッコと船を漕ぎ、ようやく船が岸にたどり着く直前、ラビッター族のほうが飛び出して一直線にクィッチに向かって走ってくる。


「座長! 怖かったですよぅ」


と走り寄るクィッチと感動の抱擁! かと思いきや握りしめた拳で思い切り頭をぶっ叩く!


「あいた!!」頭を押さえてしゃがみこむクィッチ。


「この馬鹿者が! 悪ふざけにもほどがあるわ!」


座長と呼ばれたラビッター族がものすごい剣幕でクィッチを説教し始めた。


その間にゆっくりと船が流れないように結わえて、のんびりとした足取りでやってくるクマ獣人。


「やあ、無事でよかったぁー。そっちの人らは、誰だいー?」


と言われたところでようやく説教がひと段落。少し溜飲を下げた座長を交え、先ほど起きた出来事とお互いに簡単な自己紹介となった。


「なるほど、それは本当にありがとうございました。この馬鹿がご迷惑をおかけいたしました」


座長と呼ばれた獣人はラビッター族のコムタ。クマ型獣人はベア族のブルドと名乗った。


彼らは獣人だけの軽業師集団で、芸を見せたり身体能力を活かした便利屋家業を請け負いながら、各地を気ままに旅しているそうだ。


で、今回の事の始まりだが


「この馬鹿が、たまたま並んで泳いでいたワニを見て「背中を乗り継げば対岸に渡れる!」と言い始めまして。それを煽る馬鹿と今日の酒を賭けてワニの背に飛び乗ったのです。気づいた私たちも慌てて追いかけようとしたのですが、なかなか船が見つからず。。。」


想像以上にくだらない理由で命の危機だったクィッチ。


「いや、現に対岸までは無事にこれたんですよぅ! ただ、ワニが一斉に追いかけて来て、びっくりして腰が抜けちゃったんですよぅ!」


「まぁ、クィッチの怪我もなく、ブルーブゲータを傷つける事なく追い払えたが、、、」言い淀むシーラ。


「時間の無駄であったな」容赦無く叩っ斬るアーヴァント。


膝から崩れ落ちるクィッチ。


「とにかく無事でよかったな。じゃあ俺たちはこれで」


と、獣人達と別れようとするが、座長のコムタが引き止める。


「助けてもらったのにお返しもしないのは獣人の名折れ。ちょっと今対岸まで戻って何か持って来ますので!」


いらないという言葉も聞かずに船でとって返すコムタとブルド。


取り残されたクィッチ。


クロト達はクィッチと共に、ぼんやり水面を見つめるしかなかった。

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[一言] 因幡の白兎だ
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