どうすりゃいいの?
オレはあまりの痛さに、両腕でお腹を押さえて蹲った。けれども、それだけでは腹の激痛を和らげることなどできず、オレの身体は無意識に、より丸くなろうとした。
さすがのオレも、その一歩手前で、頭を河原の底の小石にぶつける!水面に顔面から突っ込む!と気がつき、とっさに片腕を地面について、上半身を支え、頭部と顔面の直撃を防いだ。
地面についた手のひらすらも、ゴツゴツだったり、チクチクだったりした石に当たって痛かったのだが、それでも頭や顔が当たるよりは、はるかにマシだった。
オレはついた腕を支点に、そのまま横向きにゴロンと転がった。転がった先も、川岸寄りではあったが、まだ小川の水が流れていて、浅くはあったが、オレの顔半分と、胸元半分の下方が浸ってしまっていた。
オレは溺れたらマズいのと、このまま顔と身体が冷えたらイカン!と、激痛に身悶える自分の身体に鞭打って、なんとか斜め後方、川岸から遠ざかる方向に転がった。
その間も、当然、辺りに転がってる石たちや、その上や隙間に、たまに落ちてる枝たちに、あちこちをぶつけたり、刺さったりと散々だった。痛みに耐えながら、オレは何とか安全圏への移動、つまりは小川の水から影響を受けないであろう場所までの、距離を取ることに成功した。
「いってぇ・・・。」
オレは相変わらず横向きに身体を丸めながら、痛みに苦しんでいた。腹が痛い時って、なんで丸くなると、ちょいマシになるんだろうな。ちょいマシになってるんだが、それでもベースの痛みが凄まじすぎて、あんまり緩和されてる気がしないんだが?
「うぅぅっ。」
オレは堪えきれず、唸った。ここにはオレがいつも愛用している整腸剤などは無いし、助けを呼ぼうにも電話すらない。その前に、ここは異世界だ。人間っ子一人見当たらない。
一体、神様は、何度も言ってるが、居るかも分からないが、神様はオレにどうしろと言うんだ?オレを異世界に転移させたくせに、なぜオレにこんな試練を与えるんだ?なんでオレばっかり、こんな酷い目に遭わせるんだ?
気づけば、オレは年甲斐もなく、涙を溢していた。オレは右手側に寝転んでいた。右目から流れた涙は、そのまま眦を伝い、地面へと落ちていく。反対側、左目から溢れた涙は、オレの鼻筋を通り、右頬を伝って地面に落ちていく。
ポタポタッ。
涙を手で拭うことすらできない。両腕は痛む腹を抱え込んでしまっているからだ。
ああ、くっそ。なんでこんな目に遭わなくちゃなんねぇんだよ?
オレの涙は止まるどころか、ますます溢れてきた。
なんだか、さっきより腹の痛みがひどくなってきた気がするんだが、オレにはどうしようもない。
ふと、涙で滲むオレの視界に、1匹のアリが歩いている姿が写る。
ああ、アリだ・・・。この世界にもいるんだ・・・・。
オレは痛みで苦しんでいる最中、どこか意識の遠くでそんなことをふと思う。他にも虫は地面を這っているのかもしれないが、そんなことは、もはやどうでも良かった。とにかくこの腹の痛みをどうにかしてくれ!って感じだった。
包丁であちこち刺された時も、めちゃくちゃ痛かったが、この腹痛もめちゃくちゃ痛い。違うジャンルの痛みだ。さっきまで心地いいぐらいの涼しさだったのに、変な寒気を感じるし。寒気を感じているんだが、オレの身体からは尋常ではないぐらいの、滝のような汗が出ている。
「やっべぇ。死ぬかも・・・。」
なんで、オレがこんな目に遭わなきゃならないんだ!
オレは、いるかも分からない神様?、その何かに対して無性に腹が立ってきた。
包丁で刺されて、たぶん死んだオレを哀れに思ってくれたんだろう。五体満足で刺された傷の跡も無くして、転移させてくれたんだろうが、なんでこんな訳の分からない世界に来なきゃならんのだ!
オレは痛みを感じるごとに、いるかも分からない神様に文句をぶつけずにはいられなかった。
せめて、回復魔法とかチート能力ぐらいくれよ、今だけでいいからさ!それじゃなきゃ、せめて異世界人の一人でも寄越してくれよ!
オレは痛みに耐えながら、心の中でそう叫んだ。が、もちろん、何の返事もないし、身体にも何の変化はない。激痛に襲われたままだ。
「くっそ・・なんで・・・こんな目に・・・。ひっく。うぅ。ひっく。ううぅうぅう~。」
オレはついに声を上げて泣き出した。いい年した男が泣いちゃ悪いか?いいんだよ、泣いたって。ここには誰もいないし。めっちゃ痛いんだし。
ああ、オレはまた死ぬのかな?
「くそっ・・・だ、誰か、助けて・・・くれ・・・。母さん・・・。」
オレは最後におふくろの名を呼ぶと、ついには意識を失ってしまった。
【作者より】
【更新履歴】
2023.10.24 Mon. 20:21 加筆/誤字・脱字/読み上げアプリ修正
2021. 8.23 Mon. 15:38 初投稿