休憩がてら、アイツをモフろうとしら、とんでもない目に遭った①
オレはアイツがいるリンゴの木の前に戻ってきた。どれ、と、枝の上を見上げれば、ヤツはまだ何ら体勢を変えた様子もなく、青いケツと尻尾をこちら側へと向けていた。オレは考えたんだが、ヤツは夜行性なのではないか?と。
以前TVのニュースで見たことがあるんだが、コアラは夜行性で日中はほとんど木の上から降りずに寝ているらしい。そして夜間になってから動くらしい。コアラもナマケモノと同じように緩慢なイメージを持っていたオレは、そのニュースの映像中に、夜間になると昼間とはうってかわって結構動くコアラの映像を見て衝撃を受けた覚えがあった。きっとナマケモノもそうに違いない。
じゃなきゃ、夜間、枝から枝に渡ってこれるのに、昼間になったらあんなに動かなくなるのはおかしい、と。
そしてオレは31年生きてきた中で、ナマケモノが人を襲ったというニュースなど見たことも聞いたこともなかった。そうは思えど、ここは異世界。あいつの角や毛の色は、あっちの世界のナマケモノとは明らかに異なる種である。引き続き動物警戒は発令すべきだろう。
オレはリンゴを左手に持ち帰ると、右手を使って脇のホルダーから石ナイフを取り出し、そのまま慎重に口に咥えた。いざという時の自己防衛用だ。ホントなら石斧を咥えたいところだが、オレの鈍器は咥えるには重すぎた。きっと咥えたら顎が外れる!
左手はリンゴを持っていたため、オレは右手だけでなんとか縄梯子をつかんで上がった。
え?なんで今回縄梯子を使ったかって?そりゃあ、だって、アイツ、身動き取れないんだぜ、今。それにこっから上がれば、ヤツの死角じゃん。ケツと尻尾側。ヤツはまだ絡まったままだし、背後からなら大丈夫だろう?それにもし万が一を考えてこうして石ナイフを咥えてるんだしな。
アイツが絡まっているのは、縄梯子を上りきったところの右手側だ。とりあえず、アイツの身動きがそんなに出来ていないんで、そこまで上がり切っても問題がないだろう。
オレが縄梯子を上っていっても、アイツは微動だにしなかった。ちょっとぐらい首をビクッとさせるとか、揺らすとかも無かったしな。やっぱり日中は動かないんじゃないか?というか、アイツ寝てんじゃね?
オレはもしアイツが寝ているんなら、モフれるかもしれないと期待していた。この時、オレは目の前に近づいてくるモフモフに盲目的となり、派手な色イコール毒ということをすっかり忘却の彼方へと追いやってしまっていた。
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2021.8.26 Thurs. 13:039 初投稿