石斧完成
オレは切れもしない石のナイフと刃を、小川に向かって放り投げた。切れないんじゃ持ってても仕方がない。
大昔、原始人とかは石器から始まったんだろう?だから石でだって木を切ったり、木の皮を剥ぐことはできるはずだ。単にさっきの石が切れなかっただけで・・・。だよな?
まあ、正直言って、実はナイフや斧はオレにとって必ずしも必要じゃない。別に木を斬り倒すつもりもないし、動物を飼って皮や肉を取ったりするつもりはないからだ。そんなことをしなくてもいいように、オレとしてはさっさとこの世界の人間を見つけるつもりだからだ。
え?じゃあ、なんで作ろうとしてたかって?
そりゃあ、異世界転移のテンプレだし、オレがよくプレイするサバイバルゲームでは常套アイテムだからだ。それに、万が一肉食動物なんかに鉢合わせにならないとも限らない。護身用でもある。まぁ、遭遇したくはないがな。肉食動物対策なら石斧よりも石槍がいいだろう。間合いが取れる。まぁ、間合いって言ってもよく分からんが、距離ってこったな。
さいわいにも今のところ、肉食動物を見かけたことはない。日中、鳥の鳴き声みたいなんは聞こえたから、鳥ぐらいはいるのかもしれない。だけど飛んでる姿すら見てないからホントに鳥なのかも疑わしい。
オレとしては、いつまでもこのサバイバルチックな生活を楽しむつもりは毛頭ない。が、しかし、この世界の人間を見つけられない場合、オレは不本意ながらこの生活をずっと続けていかなきゃならないだろう。
その可能性を考えて、最低限の準備はしておくつもりだ。となると、しっかりと切れる石のナイフや、石斧は必須だと思う。石斧は、オレに建てられるんだったら、狭くてもいいから雨風をしのげる家を建てたいし、石のナイフはやはり木の皮を剥ぐことに使いたい。もちろん、ちゃんと切れるやつを、だ。
食べ物は森の木の実や果物を採取したり、可能なら野菜を育てるだけでいい。正直、肉は食べたいが、オレにはとてもじゃないが狩猟など出来そうもない。魚釣りが出来そうではあるが、オレは魚を捌けないし、この世界に魚がいるのかも分からない。いたとしても食えるのか不安もある。とりあえずのうちは、オレはベジタリアンでいい。
オレは、刃や棒を投げ込んだ小川の水面から、さっきの棒っきれを挟んだ石に視線を戻した。この状態の棒がなぜだかもったいない気がした。
オレは、ふと木を伐採する鋭利な石斧ではなく、鈍器のように頭でっかちな石を取り付けた、トンカチのような石斧を思い描いた。うん、棒よりも大きな石だったらさっきの石の刃に比べて安定するんじゃね?と。
オレはさっそく付近をキョロキョロ見回した。お、さっきよりなんか見えるようになってるな。この暗さに慣れてきたのか?オレが片手で振り回してもいいぐらいの大きさで、この棒の太さの倍以上に大きな石を探す。お、あれがいいんじゃね?
オレは、自分の背後、腐葉土と川岸のちょうど境目辺りにあった石の一つを手に取った。オレの右手のひらに乗せてわずかにはみ出るぐらい。少し重たい気もしないではないが、あまりにも軽いとすぐ割れてしまうからな。オレはその石を右手のひらに乗せたまま、棒の前に持ってきた。
そうして棒の端に乗せる。うん、ゴブリンとかが振り回してそうなヤツだな。オレは石が動かないように左手で押さえ、右手で蔓を何重にも巻き付けた。
ターダー!おっと、つい英語が出ちまったな。Ta-Dah!日本語で言うところのジャジャジャーン!って感じだ。
ほい、トンカチ・・・、ハンマーチックな石斧完成~!
【作者より】
【更新履歴】
2021.8.24 Tues. 7:23 初投稿