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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 吉世大海(近江 由)
ライラック王国の姿~ライラック王国編~
65/328

一人の王子様 2

 


「…少し外の様子を見たい。」

 アズミの元に行く途中、思い出したようにオリオンが言った。


「え?」

 ミナミ以外の彼に付いていた兵士たちは驚いたように声を上げた。

 ミナミも声を上げそうになったが、そこは抑えた。


 だが、オリオンが急に何を言い出したのかミナミはわからなかった。

 このままアズミの元に連れて行ってくれるのかと思ったが、遠回りをするのかと少し残念に思っていた。


 オリオンを止める者は誰もおらず、彼の要望通り外の様子を見に向かった。

 もちろん弔問客であふれる正面ではなく、来賓の馬車などが止まる警備が厳重で限られた者にしか入れない出入口だ。


 正面と違い人が少なく、止まっている馬車も豪華だった。


「…今日来る来賓の人数と照らし合わせたい。…悪いが名簿を取りに行って欲しいのと対応にあたっている者から人数を聞いてくれないか?」

 オリオンは周りにいる兵士や、対応にあたっている役の者達に声をかけた。


 それに加え、小声で「帝国の者達の動きに注意して欲しい」と、少人数の兵士に言っているのを見て、来賓の者と帝国の者が接触して欲しくないのだなと何となくミナミは察した。


「馬車の様子を見たいから、こっちに付いてこい。」

 オリオンは兵士に扮したミナミの腕を掴み、歩き出した。


 余りに一国の王子にしては無防備過ぎないかと思ったが、今はミナミが兵士となっている。

 考えてみると、まあ自然な流れではある。


 数台の馬車を警戒するように見ている途中、物陰に入るとオリオンはミナミを引き寄せた。


「…この馬車に隠れておけ…アズミが逃がしてくれる。」

 オリオンは小声でミナミに囁いた。


「え?」


「さっきの副団長…お前を見て何か察したかもしれない。」

 オリオンは、エミールがミナミに一瞬でも目を向けたことが心配なようだ。


 とはいえ、そんなに心配するほどのことではないと思うが…


「そういえば…お兄様の元に向かう途中で…フロレンスさんと副団長さんが話しているのを見た…し、それを察せられたかもしれないです…」

 ミナミの言葉を聞いてオリオンは溜息をついた。


「…今のうちに隠れておけ。この馬車は捜索されないだろうし…今はここの人目も比較的少ない。誤魔化せる」

 オリオンはゆっくりと馬車の扉を開いてミナミを押し込んだ。


 彼に押されるままミナミは馬車に乗りこんだ。


「また連絡する。兵士の二人についてはこっちでどうにかするから心配するな。」

 オリオンは多少突き放すように言った。


 その声色から、「なんとかする」というのはかなり大変なことがわかった。

 要は、オリオンは無茶な動きをするかもしれないのだ。


 今だってかなり無茶だ。


「待って!!お兄様。」

 馬車の扉を閉めようとするオリオンをミナミは急いで止めた。


「どうした?」


 オリオンは怪訝そうに眉を顰めた。


「その…」


 ミナミは呼吸を整えてオリオンを見た。


「…今まで誤解してて…ごめんなさい。」


 オリオンはミナミの謝罪を聞いて目を丸くした。


「あ…あと、今回は本当にありがとうございます。…本当に…」

 ミナミはお礼を言っているうちに泣きそうになってきた。


 ミナミの様子を見てオリオンは呆れたようにため息をついた。


「…お礼を言われるのは当然だと思うが…」

 オリオンはいつもと同じような、皮肉や嫌味を言うような口調で笑った。


 その口調に、不思議とミナミは安心した。


「…俺は謝られるような奴じゃないし、そんな必要は無い。」

 オリオンは困ったように眉尻を下げた。


「でも、私お兄様に嫌われているって…ずっと思っていたし、気に食わないって思われているって…」


「嫌ってはいないが、気に食わなかったのは事実だ。」


「え?」


「俺も人のことが言えないが、自由なくせに世間知らずで、何も知らない…正直苛立っていた。」


「…う…はい。」

 オリオンの言葉はミナミに突き刺さった。

 何も知らないというのは言い返せないだろうし、彼が苛立つのは当然な気がした。


「でも…お前は俺の妹だ。」

 オリオンは困ったような顔をしながらも穏やかに笑った。


「…」

 ミナミは、それは、ホクトも同じようなことを言えるのではと思ってしまった。


「俺とホクトの違いは…俺は、器用じゃない。」

 ミナミの思っていたことが分かったのか、オリオンは少し悲しそうな顔をした。


「器用…?」


「ああ。」


「…俺は、優柔不断でどうしようもなく不器用だ。罪のないお前を優先すればいいのに…」

 オリオンは悲しそうに寂しそうに目を細めた。


「…それって、やっぱり…」

 オリオンの言葉は、彼がホクトを庇っているという噂の裏付けになるものだった。


「じゃあな。…お前が帰ってこられるようにする。」

 オリオンはミナミの質問を遮って言うと、素早くドアを閉めた。


 やはり、オリオンの傍には誰かが必要だ。

 彼を支えてくれる、確実な味方が。


 頼りになる兄は、心強いのに今にも折れてしまいそうなほど儚げで、悲しくなるほど一人だった。




マルコム:

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ:

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。


ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。



フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。リランよりもかなり年上。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。


アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):

ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。



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