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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 吉世大海(近江 由)
帝国の赤い死神~ライラック王国編~
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企む王子様

 


 オリオンは、ミナミがよく通っていた兵士の詰め所に向かった。


 夜にもかかわらず、兵士がいた。

 その多くはルーイと同い年くらいの兵士たちだ。


 彼等の顔は沈んでいる。


 オリオンに気付くと、彼等は驚いた顔をしたが、姿勢を正した。


「…ここにいるのは、ルーイとミナミと仲良くしてくれた者達だな…」

 オリオンは詰め所にいる兵士たちを見渡した。


 とりあえず、ミナミの交友関係は知っている。

 妹であるので調べ尽くしている。

 王族に接するものに、よくない考えを持つものがいないのか把握するのは大事だ。

 ただ、思った以上にミナミの周りは後ろ暗いことが無い者たちで拍子抜けしたのは覚えている。

 ホクトやもう一人の妹のアズミの周りは骨が折れたのにだ。


 彼等はオリオンの言葉に頷いたが、少し申し訳なそうな顔をして居る。


 何故なら、ルーイがミナミと駆け落ちをしたと言われているからだ。

 信じていなくても、ルーイもミナミもいないのだからそれ以外考えられない。


 オリオンは周りを見渡した。


 オリオンの視線に気づいたのか、兵士たちは彼の元に集まった。


「ここには、お前ら以外いないな…」

 オリオンは周りを確認してから、部屋の扉を閉めた。

 兵士の一人が警戒するように魔力を使った。

 どうやら彼も周りにいないことを確認してくれているようだ。


 廊下にも人はいない。


「…ルーイとミナミは駆け落ちではない。」

 オリオンは声を潜めて兵士たちに言った。


 オリオンの言葉に兵士たちは少しだけざわめいた。


「…お前らに言いたいのは、帝国側にも王国側にもバレない様に別口で二人を探して欲しい。」

 オリオンは自分がルーイに頼んでミナミを逃がさせた話をした。

 そして、ミナミは国王殺害の現場を目撃してしまったことも。


 オリオンの話を兵士たちは黙って聞いていた。

 オリオンが動かせる人材に信頼できるものはいない。

 だが、ミナミのことを想う者はいる。

 彼女の為なら秘密を守ってくれるだろう。

 別に長期に渡って守る必要はない。

 短い期間だけ口をつぐめばいい。

 長期的な信頼などオリオンは求めてない。


「ミナミにとって何が幸せなのかは知らない。だが、父上に挨拶だけはさせたい。最期に見たのが殺された場面というのは…辛いだろう。」

 オリオンはミナミに正式ではなくとも、父との本当に別れをできる場を与えたいこと、だが、帝国側には悟られて行けないことを話した。


 そしてなによりも、決して自分勝手な意志でいなくなったわけではない。


「二人と仲のいいお前らは…二人を信じて欲しい。二人が逃げたのは…俺がそうさせた。」

 オリオンは兵士たちを見渡して言った。


 彼等がオリオンを見る目は変わっていた。

 それはオリオンもわかる。


 オリオンのことを、自分たちがミナミと仲良くするのを煙たいと思っていたと考えていたのは知っている。

 事実そうだろう。


 王族と兵士が仲良くして距離感がなくなるのは、大人になってから悲劇に変わる可能性が高い。


 オリオンは、だから、ミナミが兵士たちと友達以上の距離を取ろうとするのが嫌だった。


 だが、今は違う。


 オリオンはルーイに渡したよりは少ないが、部屋にいる兵士たちに小袋に入った金貨を渡した。


「足りるか分からないが…捜索に使え。ただし、これは正規の捜索とは別口だ。バレない様に頼む。」

 オリオンは頭を下げて言った。


「…オリオン王子は、ずっとミナミ姫のことを嫌っていると思っていました。」

 兵士たちは頭を下げるオリオンを見て言った。


 そうだろう。

 オリオンの行動は、今までのものと違う。


「…ミナミは…妹だ。」

 オリオンはそれだけを言った。


 どんな兵士よりも、ミナミとルーイとつながりの深い兵士が信用できる。

 決してリランに先を越されてはいけないのだ。


 表で動いている捜索だけでは足りない。


「…あの…オリオン王子…その、兵士で帝国側の客人に対して…その…」

 兵士の一人が、オリオンに兵士の中でリランに危害を加えようとしている者がいることを話した。


 彼等が知っているとは知らなかったが、やはり、リランの命を狙っているものがいるのは確かだ。


「お前らは何も知らない。お前らは…ミナミたちの捜索に動くのだからな。」

 オリオンは兵士たちに有無を言わせない口調で言った。


「むしろ…その動きに気を取られているうちに、探し出してくれ。」


 見て見ぬふりは汚いが、一番はミナミたちの安全だ。

 多少の自己嫌悪など、彼女の安全に比べたら大したことは無い。


 兵士たちはオリオンに頷き、敬礼でしっかりと返事をした。



マルコム:

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ:

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。



ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

帝国の公爵家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の死神と呼ばれる青年。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをオリオンに命ずる。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。リランよりもかなり年上。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。



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