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第73話 帰還と爆弾

紛らわしい名前の街を含めちょうど7個の街を救い、8つ目の街であるマウチーマにたどり着いたのだが、マウチーマは他の街とちょっと様子が違った。

門はしっかりと守られていて、門の外で冒険者と戦っている魔物たちもむしろ冒険者に押し返されているように見える。

特に余裕がありそうなのは最前線付近で、冒険者の質が高いのかもはや冒険者による魔物の一方的な虐殺にしか見えない。

俺のカンはこの世界に来てから培われた物であり決して長年のカンとは呼べないが、それが正しいとしたらここに援軍は必要ない。


少なくとも情報収集する程度の余裕はあると判断し、ギルドらしき建物の辺りに向かってみる。

見たところ街中に一般人はいないが、中に入った魔物の掃討が開始されているようだ。

鎧を着た門番らしき男が魔物を剣で倒したり、モヒカンの冒険者らしき男が火魔法で魔物を火だるまにしたりといった様子が見える。

そちらも特に困っていなさそうなのでスルー、ギルドに直行だ。



ギルドの内部は今までの街と大して変わらなかった。

避難している人数が比較的少なく、避難民の顔も明るいことを除けば他の街と同じ、ギルド兼簡易避難所だ。

受付嬢もちゃんとスタンバイしているし、そこまでの道も確保されている。


「あの、フォトレンから援軍に来たんですけど……いらなかったですかね?」


「フォトレンからの援軍ですか? しばらく前に到着したはずですが……」


「ああ、やっぱりそうでしたか」


街の様子を見た時点で薄々気付いていた。

最初から戦力に余裕があったなら街中に魔物がいるのはおかしいし、魔物の質に対して前線の冒険者が強すぎる気がしたのだ。

フォルチーマ側とフォトレン側から援軍が出発して、ちょうどここで合流したと言うことだろう。

前の街からここに来るとき、俺と反対向きに道を進む冒険者の一団が見えたが、あれは恐らく援軍の一部だ。


「やっぱり?」


「俺はフォルチーマ側まで魔法で飛んでからこっちに向かって進んできたんですよ。ここで合流したってことでいいんですよね?」


「あ、確かに先に来た冒険者さんたちが言っていましたね。ということはあなたがカエデさんですか?」


「そうです、俺のことも伝わってたんですね」


「先の街へ回す援軍が少ないんじゃないかと言う話になったとき、やたらと魔力の多い魔法使いが先行したから大丈夫だと言われまして。それで、どこに援軍を出したらいいのかを調べなければならないので今までに行った街を教えていただけますか?」


やたらと魔力の多い魔法使い。

俺、そんな認識か。

間違っちゃいないが、万一俺がやられた場合などのことは考えなかったのだろうか。

まあ、寝ていても勝てるような敵ばかりだと分かっていたから心配しなかったのかもしれない。

あと、俺は一応剣士でもある、はずだ。


「ええと、フォルチーマ、フォルテーマ、フォルテート、フォル……」


今までに救ってきた街の名前を挙げていく。

紛らわしい名前だったが、何とか覚えていたようだ。


「あれ、この先の街全部じゃないですか。連絡が入ってからにしては早すぎませんか?」


「魔法で魔物を森ごと焼き払った上であとは現地の冒険者に任せてきましたので」


「それなら大丈夫でしょう、今取っている対応のままで問題ないと思います。今からこのことを支部長に報告してこようと思いますが、その他に何か急ぐような用件、報告などはありますか?」


「特にはありません」


「わかりました。それからフォトレン支部から連絡がありますので、後はこのミランダから聞いてください。ミランダ、あとはお願いします」


「はい。では私がこれからの予定について説明させていただきます」


てっきり対応が完全に決まるのを待たされると思っていたのだが、違ったようだ。

少し前から最初の受付嬢の後ろに立っていた人が前に出てくる。


「もう次やることが決まってるんですか?」


「はい。今から5日後の日の出までにフォトレン支部へ帰還してほしいとのことです」


「5日後ですか」


結構余裕がある。


「はい、こちらでやることが残っていてもそれまでには帰ってきてほしいとのことです」


「理由とかは?」


「新兵器の実験とのことです。詳しくは聞かされていませんが」


新兵器の実験か。

タイミング的には、今の状況を何とかするためのものだろう。

俺を呼ぶ理由は大量の魔力を消費するとかだろうか。


「わかりました、それまで俺は何をすれば?」


「そうですね……恐らくカエデさんなしでも戦力は足りていますが、念のため支部長から方針が伝えられるのを待っていただいて大丈夫ですか?」


「どのくらいかかりますか?」


「長くても10分ほどでしょうか」


「じゃあ待ってますね」




5分ほどで出た回答は、特に必要な仕事はないから好きにしていいというものだった。

なのでさっさとフォトレンへ向かうことにする。

そこまで疲れているわけではない上、移動を考えても4日ほどあいているため、はじめはどこかへ援軍に行こうとも思った。

しかし、今から他の場所に移動しようにもどこに行けばいいのかが分からない。

それに新兵器というのも気になる。

結局、フォトレンに行く以外の選択肢は見当たらないのだ。

休むか働くかは、それから決めればいい。


ということでフォトレンに帰るということを伝え、フォトレンに向けて飛び立つ。

壊した物とは違うアンカーをフォトレンから持ってきたので、帰りは道を見ながら飛ぶ必要はない。

減速を始めるのが遅すぎて少し行き過ぎてしまったが、それでもフォトレンに到着するまで20分もかからなかっただろう。

状況確認のため、まずはギルドだ。

受付に行くと、向こうの方から名前を呼ばれた。


「カエデさんですね」


「はい、今帰還しました。フォル……何とか方面はもう大丈夫みたいです」


名前はもう忘れた。


「報告は支部長に直接お願いできますか? カエデさんが帰ってきたらすぐに支部長室へお連れするようにと」


「わかりました」




「失礼します」


「はじめまして、カエデ君。まあ座ってくれ」


フォトレン支部長は初老の男だった。

冒険者のような強そうな感じはしないが、有能そうな感じの人だ。

機能の集中する大きいギルドだと、支部長もそれに合った人になるのだろう。


「はい」


よそのギルドに比べ、だいぶ高そうな椅子に腰を下ろす。


「予想通りとはいえずいぶん早かったようだが、フォルチーマ方面の防衛は問題なかったか?」


「ええ、森を潰して魔物を間引いて、現地の冒険者とフォトレンから来た冒険者に引き継ぎました」


「うむ。問題ない」


「それで今回呼ばれたのは、新兵器とやらについてですか?」


「ああ、新兵器『魔石爆弾』製造の最終工程に使う船の護衛を頼みたい。報酬は3000万テルだ」


名前からすると、新兵器は魔石を使った爆弾だろうか。

イマイチ船の使い道という物がピンとこない。

それから護衛のくせにずいぶん高い。


「重要な依頼みたいですので受けることはやぶさかじゃありませんけど、爆弾の製造に船ですか?」


「ああ、魔石爆弾は最初の1個を用意できさえすれば後は連鎖的にほぼ無限に作れるらしいのだが、その最初のものを作る場所が問題でな。魔物の領域の奥で、ということになったのだ」


「近場じゃダメなんですか?」


魔力的な何かがいっぱい必要だとか?


「出来んことはないが、安全性の問題だな。魔石爆弾の2個目以降は他の魔石爆弾による爆発の余波を当てて作るらしいが、普通の魔石は他の魔石の余波がなければ起爆可能な状態に出来んらしい」


「作ったことがないのに、そんなことが分かるんですか?」


「私も詳しいことは知らないが、研究者共が言うにはそうらしいな。そのため最初はウィスプコアを使い、他の魔石を魔石爆弾化するとのことだ。この辺りが研究はされていたにもかかわらず魔石爆弾が実用化されていなかった原因だな」


「でも、今回の件でそうも言ってられなくなったと?」


「そういうことだ、今回の襲撃はフォトレン付近に限らず、情報が集まる限りの範囲全域で起きている。カエデ君が10人くらいいれば魔石爆弾なしでも何とか出来たかもしれないが……」


9人ほど足りないな。


「俺も流石に分身は無理ですね。それで、爆弾が危ないから遠くでやる、俺は船を爆風から守れってことですか?」


「いや、爆風は距離を取ればすむことだ、それより問題なのが爆発の後だ」


「後?」


「魔石爆弾の製造に反対している研究者のグループによると、魔石爆弾は亜龍を呼び寄せる可能性があるらしい。出来るだけ遠くで実験を行うのはそのためだ」


「亜龍……」


ドラゴンに関する本に書いてあったことを思い出す。

魔石を使った爆発でドラゴンを呼び寄せた上で倒すとか書いてあったはずだ。

大昔のことなので今ドラゴンが出てくるとも思えないが、心配になる。


「そうだ。実際に亜龍が出てくるかどうかなどは分からんが、魔物の領域の奥であれば万一亜龍が出ても問題はない、置いてくればいいのだ」


「つまり、その場合の撤退を援護しろと」


「そういうことだ。船自体も国に一隻しかない対亜龍用の極めて強力なものだが、冒険者の援護なしで亜龍をどうこうできるものではないからな」


話を聞く限りは問題なさそうだ。

本に書いてあった兆候も出ていないし、ドラゴンが出てくることも恐らく無い。

念のためドラゴンが出て来た際に使うらしい魔道具『魔凍』でも用意しておこうか。

使うことはまず無いだろうが。


「よし、お受けしましょう」


「君の仕事が無いに越したことはないんだがな、もしもの時は頼んだぞ」


「はい。仕事があったらそれはそれで素材が入っておいしいですけどね」


「倒す前提か、心強いな……話は以上だ」


「では失礼します」


ラッキーだ、なんだか楽なくせに儲かりそうな仕事がもらえてしまった。

下手をすれば船で寝ているだけで3000万テルがもらえるし、場合によっては亜龍の素材までつく。

素材が全部もらえるとは限らないが、十二分においしい依頼だろう。

気分は道で千円札を拾ったくらいの感じだ。


さて、まずは魔凍の用意だな。

そういえば俺はカトリーヌが今どこにいるのかを知らない。

メルシアにでも聞こうかな。

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