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第65話 ズナナとワカメ

 出発の時が来た。

 船に乗っているのは俺、メルシア、船長(メルシアが雇ってきた)、乗組員3名、収穫作業を任せる予定の従業員7名の、合計13名だ。

 大きさの割に乗っている人数が少ないので、窮屈な思いをすることもない。


「そういえば船の進路はどうやって決める? 羅針盤とかあるのか?」


 操縦席には舵やら魔石の推力を調整するためのでかいレバーやらはあるが、羅針盤らしきものは見当たらない。

 今回は俺が案内しているが、そうでない時に迷ったりしないのだろうか。


「らしんばん? なんですかそれは?」


「航海の時に船が迷わないために使うもので、細かい方角を示すものだったはずだ」


『らしんばんまわすよー』などと言いつつ羅針盤を土台ごと回して進む方角を決める使い方もあるようだが、特殊なものだろう。

 ただでさえ重いものを回転させるなど危険な上、思い通りの方角に進めない可能性が高い。

 つまり、羅針盤としての意味を成していない。

 ぜひともやめていただきたい。


「方角なんて調べてどうするんですか。 アンカー使えばいいじゃないですか」


「アンカー?」


「ええ。 2つセットで使うと、もう片方がどの方向にあるのかを示してくれる魔道具です。 燃費は年単位で放っておけるほど素晴らしいのですが反応が遅いとかで、使うのにはややコツが必要みたいですが」


「便利なもんだな。 戦闘にも使えるんじゃないか?」


「無理ですね。 反応が遅いですから、アンカーが正しい方向を示すのを待っている間に戦闘が終わってしまいます。 せいぜい森に入るときに街の物を持っておいて帰るときに使うくらいです」


「そんなもんか」


 GPSみたいなものがあれば役に立つと思ったのだが、そううまくは行かないか。

 何か別の使い方はないだろうか。


「片方が壊れたら、もう片方はどうなるんだ?」


「両方があるうちは、対のアンカーの方向が明るい色になるのですが、もう片方がなくなった場合には全体が暗い色になるので判別が可能です」


 ……おや。


「島と通信ができるような魔道具もあったりするのか?」


「そんなものありませんよ。 あったらギルドがとっくに使ってます」


「……アンカーで通信できないか?」


「アンカーで通信? どうやってですか?」


「お互いに持って、何かあった時に叩き壊せばいい」


「何かあったことを伝えることしかできませんよ?」


「いっぱい並べて、壊す順番で伝えたり」


「……その発想はありませんでした! どうしてもっと早く言わなかったんですか、コストは高いですがギルドや大商会なら喉から手が出るほど欲しがるような遠距離通信技術ですよ!」


「今思いついたし。 っていうかアンカーの存在知ったの今だし」


 そのくらい誰かが思いつきそうなものだが、案外思いついていなかったらしい。

 薬の技術といい、良い材料があるのにそれを生かしる技術があまり発展していないのは、魔法が便利すぎるからだろうか。


「まあ使うならうちで使ってもいいし、ギルドとかに教えるなりしてもいいぞ。 その辺は任せた」


「いいんですか?」


「薬とかに比べると技術として微妙だし、特別なもん使うわけでもないからな」


 そんなことを話しているうちに目的地に到着した。

 島までの距離は数百メートルといったところだ。


「じゃあちょっと待っててくれ。 やることがあるから」


 家を設置する前に、まだやるべきことがあるのを忘れていた。

 収穫作業がしやすいように、ズナナ草の収穫地を平らにする作業だ。

 俺が収穫するなら別にいまのままで構わないのだが、これからは従業員が、場合によっては魔道具を利用して草刈りに励むことになる。

 魔道具を使う場合、なおさら地面の凹凸はなくしておいたほうがいいのだ。


 作業自体は簡単、逆さ地すべりを発動させながら島を歩きまわる、それだけだ。

 平らになるようにと意識して歩き回れば、そうなってくれるのだ。

 池を残して島を全て平らにするまでに30分とかからなかった。

 最後に適当な場所に家を設置して作業完了だ。


「よし、作業完了、もう来ていいぞ」


 船に戻り船長に指示を出す。


「島が平らに…… 一体何が……」


「なに、ちょっと整地しただけだ。 ステ○ーブならあの程度20分で整地を終わらせるぞ」


「スティ○ブ……? まあ知ったこっちゃねえです。 島に移動する人は揚陸艇に乗ってくだせえ」


「了解。 俺は飛んで行くから、残りで適当に乗ってくれ。 飛べる奴はそれでもいいが」


「人は普通飛びませんが……」



 空をとぶ奴は俺以外にいなかったらしく、俺と船長、あと乗組員の2名を除いて全員が揚陸艇に乗った。

 操縦は一人だけ乗った乗組員の仕事だ。


「よし、行け」


 船長の命令とともに揚陸艇は浮き上がり、そのまま水面から数メートル離れた位置を島に向かってスムーズに飛んで行く。

 何かあったら下から支えるつもりでいたが、そんなこともなく揚陸艇は無事に島に到着し、家の前に着陸した。


「結構スムーズだな」


「テストの際に少し練習しましたからねぇ。 燃費が微妙なのであまり長くは無理でしたが、感覚くらいは掴めまさぁ」


「この短期間でか」


 揚陸艇は案外扱いやすいのかもしれないな。

 それか雇ってきた乗組員の腕がいいのか。


「よーしじゃあ魔道具のテストやるぞー」


 用意しておいたズナナ草刈りに使う魔道具を取り出し、従業員にテストさせる。

 聞くところでは土魔法の一種らしいが、中々使えるようだった。

 再利用可能なようなので従業員の魔力の余った分を使えばいいだろう。

 島内で草を運搬するための魔道具もバッチリだ。


 それから、島にあった池では食べられる植物が群生しているということがわかった。

 池の中にあったおかげで、整地の暴力から逃れることが出来たのだろう。

 淡水に生えるワカメのようなもので、美味いそうなので適当に回収しておいた。

 従業員の食料の足しにもなるだろう。


 30分後。

 食料、アンカー、その他の必要な物を家に置いた俺たちは再度船に集まっていた。


「じゃあ、こんなもんかね。 忘れ物とかないか?」


「大丈夫かと思います」


「よし、じゃあ行くぞ。 お前ら頑張れよ」


「はい!」


 従業員のうち5名は島に残り、収穫作業を行うことになる。

 ズナナ草の安定供給のため頑張ってもらわなければならない。

 給料は高めにするし、そのうち人数を増やして交代制にする予定だ。


「よし、じゃあな。 出発!」


「了解でさぁ」


 ここに来るときに使った揚陸艇は再度浮き上がる。

 そしてそのまま危なげなく船の上まで飛んでいき、静かに着地する。

 そうして船は来た道を引き返し、俺達を街へと運んでいった。


 ちなみに、途中で愚かなボートキラーが頑丈な船に頭をぶつけて浮いてきたので回収しておいた。

 食う分はまだあるし、店で売るか。

 ボートキラーの一本釣りなんかやるのもいいかもしれないな。



 一週間後。

 入植以来初めての、島(第一ズナナ島と名付けておいた)への連絡船が第一ズナナ島に向けて出航した。

 船員以外に乗っているのは俺、メルシア、それから新たな入植者の3人だ。

 船は何事もなく第一ズナナ島に到着した。

 目的は追加人員の輸送、刈ったズナナ草の回収、それからあのワカメ(この世界ではヌメサとかいう名前があるらしいが、要するにワカメだ)の回収だ。

 あのワカメはなかなか美味かった。


 揚陸船とともに島に到着し島の風景を眺めたが、ズナナ草は相変わらずの生命力だ。

 整地によりほとんど草も生えていなかった島は、今や青々とした草原だ。

 草刈り班も頑張っているらしく、島の4分の1ほどは草原の高さが落ちているが、その辺りを境に高さを増し、島のうち半分ほどは手付かずのようだ。


「船が到着したぞ! 集合!」


 招集がかかり、ミスリル製の草刈り鎌を持った草刈り班が船のあたりに戻ってくる。

 島の反対側の手付かずの部分を刈っていたようだ。


「よし、集まったな。 見たとこ島の半分くらいしか刈れていないようだが、作業が遅れるようなことがあったのか?」


 この人数なら、島を狩り尽くすまでに3日とかからないと予想していたのだが。

 半分も手付かずとは。


「いえ、すでに何度も刈り終わったのですが…… あちらに」


 草刈り班の一人が指さした方を見ると、ズナナ草がうず高く積まれている。


「じゃあ、あの辺はどうしたんだ?」


 全く人の手が入っていないように見える青々とした草原を指さして聞く。

 ……まさか。


「一日中刈っても、復活してくるんですよ。 朝に刈った場所が夕方には復活してるんです」


「わけがわからないよ……」


 一度、竹やワルナスビとこいつらを戦わせてみたい。

 生態系破壊バイオ兵器たちが薬草に敗北する様が見られるかもしれない。


「まあ、資源が多いことはいいことだな。 多少キモいが、これからもよろしく頼むぞ」


「分かりました! 頑張ります!」


「それからこいつらが追加の人員だ。 正直ズナナ草は今のところいくらあっても足りないからな、これからも増員予定だ」


「おお、増員ですか。 いつかこの島のズナナ草が刈られ尽くした状況を見たいものですね」


「まあ、多分2日もすれば復活するがな。 生えるズナナ草が足りないようであれば別の島も使う予定だ。 ……他になにか困ったこととかあるか?」


 いくらこの世界の住民は標準的に体力があるほうだといえ、一日中草刈りをやればさすがにぎっくり腰とかになってもおかしくない。

 ポーションは用意しているが、他にも問題が起きるかもしれない。


「あー、あるといえばあります。 あの池なんですが……」


「池がどうした。 枯れたか?」


「いえ、池自体は大丈夫なのですが、ヌメサが魚に食われて大分数が減ってしまいまして…… 急に環境が変わったせいで魚が増えたのでしょうか。 とにかく俺達の食卓がピンチです」


 なんだと。

 意外と量が少なかったから、大事に食べていたというのに。

 あきれた魚だ。生かしてはおけぬ。

第五章が最終章の予定ですが、だからといって長々と重苦しいシリアスパートやったりはしません。

最後まで割とサクサク行く予定です。

第二部やる可能性があるので第五章って書き方ですが。

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