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第33話 魔剣と既視感

 とりあえず地面に剣をおいた俺に、スミズさんが説明する。


「それは確かに強い剣だ、だが死にたくないなら使うべきじゃねえ。特にその剣を使いながら魔法を使うとか自殺行為だ」


「すみません、この剣って一体何なんですか?」


「それはアーティファクトと一緒に焼け跡から出てきたんだよな? それで魔力で強化されるとなればその剣は"行き過ぎた魔剣"と呼ばれる代物だ、まともな人間に扱えるものじゃねえ」


 名前が付いているらしい。それから焼け跡。ガインタさんにも聞いた単語だ。


「なんで危ないんですか? それから焼け跡って何ですか?」


「焼け跡ってのはアーティファクトが見つかる場所のことだ、大体どっかしら焼け焦げてるから焼け跡って呼ばれてる。その剣が危ないのは魔力を吸い尽くされるからだ」


「魔力を吸い尽くされる? でも魔力が尽きても体調が悪化したりはしませんよね?」


 それとも、魔力が尽きたと思ってもまだ実は残っていてその分まで吸い尽くされるとかか?


「魔法を使って尽きた場合はそうだ、だがその魔剣は魔法を使って魔力が尽きた後でも魔力を吸い続ける。そうなると剣を持った場所から体の動きがおかしくなる。運良く手から剣が離れればいいがそうじゃなきゃ死ぬまで魔力を食い尽くされて終わる」


 コワイ! しかしなぜそんなこと知ってるんだろう。


「それは危ないですね、でも何でそんなこと知ってるんですか? 鍛冶屋とはあまり関係ありませんよね?」


「ウチは鍛冶屋とはいっても魔法関連の特殊素材を扱ったりするからな、行き過ぎた魔剣の技術を何か生かせないかという研究に参加したこともある、ほとんど何も分からなかったんだがな。ちなみに魔力が尽きたとき剣を持つとどうなるかは死刑囚を使った人体実験で調べた」


 マッドサイエンティスト、この世界にもいるのかと思ってたけど目の前にいたよ。この人マッドサイエンティストだよ。

 しかし魔力を吸い尽くされるだけなら俺にはあまり関係無い気がするな。


「俺は魔力が多いですので、大丈夫だと思います。魔力が不足することは多分ありません」


 帰りに魔法を使ってみた限りでは放出の上限は上がっていないようだったからむしろ回復分がダダ余りだ。


「それは行き過ぎた魔剣がなんで行き過ぎた魔剣なんて呼ばれるのかを知らないからそんなことが言えるだけだ。普通の冒険者が持てば1分もせずに魔力切れで魔法が使えなくなる、それから30秒もすれば外傷もない変死体の完成だ」


 なんだ、MPがたったの20程度しかない一般の冒険者でも1分ももつのか。楽勝じゃないか。

 今の俺は1秒もあれば余裕で冒険者一人分など余裕で回復してしまう。そもそも岩の槍をフルに撃っただけで普通の冒険者の魔力は2秒程度で尽きてしまうのだ。


「その程度なら問題ありませんね、フルパワーで魔法を放ちながらでも俺の魔力は冒険者一人分回復するのに30秒もかかりません」


「何だその化け物じみた魔力は…… しかしメタルリザードを丸々一匹アイテムボックスに収納することを考えればありえなくもないのか? そもそもメタルリザードをアイテムボックスに入れることがすでにあり得ないからな。まあいずれにしろそれを使う気なら戦う時以外は鞘に収めておけ、それから戦闘中でも違和感を少しでも感じたらすぐに手を離せ」


「はい」


「それからあの変な杖だか剣だかわかんないのが完成したぞ、杖のほうは知らんが剣の部分は俺が作った、性能は保証する」


 おお、あれが完成したのか。刃付きの杖、刃杖とでも呼べばいいだろうか。


「わかりました、どこにありますか?」


「スミサが持ってるからついでにスミサから説明を聞け、普通の剣とは違うからな」


 とりあえずスミサちゃんに会い、剣についての説明を聞くことにした。


「ここからここまでが魔力収集部よ、魔法を使うときにはここを握るといいわ。以上よ」


 説明は思ったほど長くはなかった。剣を受け取る。

 剣は全体的に銀色だが、魔力収集部と剣の部分の境目は若干色が違う。ここで魔力を遮断しているのだろう。


「ああ、ありがとう」


「余った金属は買い取りでいいのよね? 金は今ここにはないから商業ギルドで受け取って。ギルドカードを見せればいいわ」


「大丈夫、ちなみにいくらくらい?」


「材料と加工費を引いて100キロくらい余ったから3億くらい、うちの工房でもなければまとめて買い取るのは無理な量ね」


 アーティファクトといいインフレが酷い。大丈夫かこの国。

 それとも個人としての取引にしては大きいが3億くらいなら企業としての買い付けだと思えばそこまで異常な額でもないのか?1テル10円としても熊手4本分くらいだし。

 そういえば鎧を作るのを忘れていた。


「あと鎧も作りたいんだけど、そっちは大丈夫かな?」


「それはお父さんの領分ね、魔力抜きも終わってるし今日は特に急ぐ仕事もないから必要なら今日にでも作り始められると思うわ」


 またスミズさんか。二度手間だ。

 とりあえずお礼を言ってスミズさんにもう一度話しかける。


「すみません、鎧もほしいのですが」


「メタルリザードのか? メタルリザードメタルの鎧は確かに強力だが普通は魔法使いは使わな…… お前に今更普通を説いても遅いな、作ってはやるがどんなのがいい?」


 どうしようか。重すぎると機動性が削がれるが軽くしすぎて鎧として役に立たないのでは話にならない。

 そんな物を使うくらいなら魔法装甲だけで十分だ。それが必ずしも信用できないから鎧を着るのだ。

 考えてみれば俺は致命傷を負っても即死しなければ魔法でリカバリーが可能だ。即死だけ防ごうか。


「頭を守るものと胸当てでお願いします、即死だけ防げば魔法で回復できますので」


「それであの異常な魔力量ってか。お前殺しても死なねえんじゃねえか。まあそのくらいなら今日中に作っておいてやる、これに触れろ」


 そう言って出されたのはギルドとかで見るようなのに似た箱だ。ステータス表示とかに使う奴みたいなのだ。自動採寸機? とりあえず触れておいた。

 もう帰ってもいいといわれたので剣を手に持ちながら帰る。左手で持つが別に問題は感じない。刃渡りは60cmといったところだろうか。魔剣に比べるとだいぶ短いが剣としては割と普通の長さだ。

 まだ昼だし早速新しい2つの武器を試してみるか。

 魔剣も取り出して手に持つが。MPを確認してみるがMPは上限に張り付いている。やはり回復に消費が追いついていないようだ。


 余りに敵が弱いと試し切りの的にもならないので奥へ進んでみる。奥へと進んでみるが魔物とは遭遇しない。

 ほぼ全速力で5分ほど進むと森の雰囲気が変わった気がした。何か騒がしい。

 理由を考えるとさらに1分ほど進むと触板に反応がある。羊っぽいやつだ。

 ラッシュシープとかいうのがいると言うことを聞いたことがある。基本的に温厚で特に有害でも無いから討伐依頼は出ていないとかだったか。

 攻撃しても余り反撃してこないため安全だが肉は特にうまくも無くあまり狩るメリットもない魔物だったはずだ。有益でも無害でもない地味な魔物だ。一応魔物ではあるらしい。

 悪いが試し切りの的になってもらうぞ。その前に魔法の速度か。


 俺は刃杖を誇らしげに構えた。岩の槍を7発まとめてラッシュシープに放つ。

 岩の槍は目で追うことがやっとの速度で放たれた瞬間に着弾し、哀れで愚かなラッシュシープはミンチになった。しかし触板の反応は減らない、むしろ増えた。

 群れだ。それもかなり密度が高い、そう、エインで見たグリーンウルフの大群くらいの密度だ。それがこっちに向かって、明らかに襲いかかってきている。ラッシュシープってこんな魔物なのか? 温厚どこいった?

 規模を確かめるついでに近付いて魔力を込めた魔剣で切りつける。全く抵抗なくラッシュシープがスライスされる。

 岩の槍で数を適度に減らしながら左手の刃杖でも切りつける。抵抗なく、とはいかないが簡単に骨ごとスライスできた。

 触板に意識を向ける。群れの規模はかなり巨大なようだ。すでに触板の範囲はラッシュシープだらけなのにまだ群れの後ろからラッシュシープが追加されている。


 なんだろう、うん、これ、すごい既視感を覚える。前にもこんなことあったよな。

 またどうせこれ、珍しい魔物かなんか出てくるんじゃないの? それでこいつらはそいつに追い立てられてる、と。

 となればとりあえず偵察に行ってみよう。素早く処理するのが一番だ。

 今の俺が逃げようと思って生きて帰れない魔物なんて出てこないだろうし。

 となればこの哀れで愚かなラッシュシープたちを無意味に殺戮する必要はない。ここは逃げるか。

 マジスさんが使っていた風魔法のような物をイメージしてみる。ぶっつけ本番だが成功した。

 MPは相変わらず上限張り付きだ。風なのかはわからないが何かに背中を押されている感じがする。速度はぐんぐん上がり、もはやなんか木をよけるミニゲームみたいになってしまっている。よけるのは結構大変だ。


 これもしかして、飛べるんじゃなかろうか。体をやや上に向け、力を大きくする。

 飛んだ、確かに飛んだが飛翔というよりは跳躍だ、あっという間に地面が遠ざかる。そのまま遠ざかり続ける。

 慌てて体をやや下に傾けて力の方向を下に向ける。少しして上昇は止まり、今度は地面に向かってものすごい加速度で落ちていく。やばい、減速、減速。

 この魔法、イメージの問題なのか魔法特有の力の大きさと加速度の関係とか無視した感じの動きじゃなくて単純に後ろから押される魔法って感じだ。

 つまり何が言いたいかというと、下向きに加速する際には重力に逆らって上に上がるための力が下に向けられるだけではなく、重力加速度まで追加されてる気がするんだよね。減速間に合わない。


 かなりの速度で迫ってくる地面を見ながら、俺は軟着陸をあきらめ魔法装甲を展開する。

 最後の悪あがきとばかりに余った魔力でわずかに減速しながら、俺は地面に激突した。

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