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相互理解//彼女と彼の関係

本日2回目の更新です。

……………………


 ──相互理解//彼女と彼の関係



 私たちはカンタレラさんの家での用事を終えて、TMCセクター3/1にあるリーパーの自宅へと戻ってきた。


 帰ってきたころには夕日が沈み始めており、夜が訪れようとしていた。


「お腹が減りましたね」


 リーパーはジェーン・ドウにケーキをおごってもらっていましたが、私はコーヒーを飲んだだけなのでお腹が減って来ましたよ。


「なら、晩飯にするか。晩飯はピザでいいな」


 そして、リーパーが特に私に相談することもなく、宅配のピザを注文。


「ツムギ。自分の力はまだ引き出せそうか?」


 それからピザを待つ間の雑談とばかりにリーパーがそう尋ねてくる。


「どうでしょうね。それなりに使いこなせるようになっているとは思うのですが」


 私はキッチンにおいてある業務用かと思うほど大きな冷蔵庫を覗き込んで、そこからミネラルウォーターのボトルを見つけると勝手に取り出した。


「健康志向なんですね」


 他に冷蔵庫にはダイエットコーラ、ノンシュガーのアイスコーヒー、牛乳、プロテインの類──全て100%合成品──は入っていたが、砂糖たっぷりのジュースやお酒の類は見当たらなかった。


「俺の仕事(ビズ)は体が資本だからな。死にたくないなら余計な脂肪はつけない方がいい。それに酒は苦手だ」


「意外ですね」


「そうか? 俺は常に思考がクリアでありたいと思っている。わざわざそれを鈍らせる酒は好きじゃない。それにアルコールの味というのはどうにも舌に合わない。あれはどこが美味いんだ?」


「子供舌ですね。まあ、私もお酒は飲めませんが」


 私はアルコールは風味を味わう程度には好きだったのですが、前世では入院が続き、今世では酒どころではなく。


「となると、タバコもダメですか?」


「今どきタバコを吸うやつの方がすくないだろう」


 それもそうなのである。


 どこでもタバコよりお手軽に電子ドラッグが手に入るせいで、タバコの価値はほとんどない。それにタバコの原材料も例にもれず、環境破壊と感染症のせいで失われてしまっていると聞く。今では恐ろしい高級品だとか。


「あなたのことが段々と分かってきた気がしますよ、リーパー」


「俺にはお前のことがまだ分からない」


「そうですね。自己紹介も十分にしていませんでしたからね」


 私はミネラルウォーターのボトルを開けて口を付けるとリーパーがいるダイニングのテーブルの方に向かった。


「改めて自己紹介しましょう。私はツムギ。年齢は多分12歳くらいです」


「こんなことして意味あるのか?」


「お互いを理解することは必要ですよ。リーパーも自己紹介してください」


「分かった。俺はリーパー。本名はない」


「…………本名がない?」


 リーパーが平然と告げた言葉に私は首をひねる。


「ああ。元から名前がなかった。『お前』『あれ』『あの男』。そういう代名詞で呼ばれ続けていた。リーパーというのは仕事(ビズ)で必要だからジェーン・ドウがつけた名前だ」


「本当に本名がないんです……?」


「名前がそこまで重要か? なければないでどうにかなるものだぞ」


 リーパーの経歴を聞いて、特殊な生い立ちなのだろうなと思っていたが、これはあまり探らない方がいいのかもしれない。


 子供に名前を付けない環境など聞いて気持ちのいい話とは思えないのだ。うちの電子ドラッグジャンキーの両親ですら私に名前を付けたのに。


「年齢は?」


「IDには23歳とある」


「実際は?」


「覚えてない」


 ううむ。これでは自己紹介が自己紹介にならないのですが。


「では、好きなこと────は分かりきっているので、好きな食べ物を教え合いましょう。私はたらこパスタが大好きです。あいにく最近は食べれていませんが……」


 今や海洋汚染は悪夢のようになっており、海は濃縮されたマイクロプラスチックと致死的な毒素を吐く海洋微生物で覆われている。


 そこで商業的な漁業などできるはずもなく、たらこパスタは遠い彼方へ…………。


「食べ物にこだわりは特にない。強いて言うなら…………」


「言うなら?」


「ハンバーガー」


 お酒がダメで、好きなものはハンバーガー。子供みたいですね。


「じゃあ、次は好きな映画やアニメ、漫画はどうです?」


「ゲーム以外ということか?」


「そうなります。私の好きな映画は英国王のスピーチって映画です。面白いですよ」


 昔、病院で見た映画で感動したのをまだ覚えてる。


「知らんな。しかし、好きな映画か……」


 暫くリーパーは考え込むと思いついたという顔をした。


「プライベート・ライアン。その冒頭が好きだ」


「プライベート・ライアンの冒頭ってノルマンディー上陸作戦の海岸の戦いで、機関銃やら迫撃砲でぼこぼこにされるところですよね? 血まみれ、臓物まみれで悲惨だった記憶があるのですが……」


「ああ。あそこからどうやって生き残るかを考えるのは楽しかった」


「後半の方はどうなんです?」


「覚えてない」


 プライベート・ライアンが好きと言いながらライアン二等兵が出るところまで見てない疑惑があるリーパーであった。


「はあ。では、最後に。生まれ変わったら何になりたいですか? 私は裕福な家庭に生まれた健康な超絶美少女に生まれ変わりたいです」


「生まれ変わったら、か」


 リーパーはまた考え込む。


「そうだな。またこの人生に生まれ変わりたい。そっくりそのままな。ゲームでも周回プレイは楽しいだろう?」


「人生の周回プレイは果たして面白いんですかね」


 私は前世も今世も周回するなんてごめんこうむる。


 そんなことを話していたときに宅配ドローンの到着を知らせるブザーが鳴った。家事ボットがピザの受け取りに向かう中、リーパーは私の顔をじっと見ていた。


「どうしました?」


「何か隠していないか?」


 そう言われて少しどきりとした。


 確かにリーパーに隠していることはある。私に前世があることは喋っていない。


 それに気づいたのだとすれば…………やはりリーパーはただ者ではない。


「何も隠していませんよ。しかし、隠しているとしたら何だと思います?」


「孤児時代に何かしらの裏家業をやったことがある」


「まさか。どうしてそう思いました?」


 私は肩をすくめて笑い、リーパーにそう尋ねる。


「言動がな。学のない子供のそれと違う気がした」


 おっと。危ない、危ない。確かに前世を前提に喋ってしまうときがある。


「リーパー様。ピザが届きました」


「テーブルに置いてくれ」


「畏まりました」


 家事ボットは恭しくLサイズの大きなピザの箱をダイニングテーブルに乗せ、リーパーが箱を開く。


「おお。これ、辛いやつですよね?」


「ああ。ハラペーニョのやつだ。あとはチョリソーとか」


「私、辛いのは嫌いじゃないですよ」


 ひょいとピザを一切れ抱えて、伸びるチーズを引っ張りながら口に運ぶ。


 やはり少し化学薬品臭がするが、辛さでそれがごまかせるのだ。


「お前のことは少し分かった」


 リーパーもピザを無造作に取ってがぶりと食らいつく。そして、数回咀嚼したのちにミネラルウォーターをボトルから飲み下して言う。


 それ、私のミネラルウォーター…………。


「お前は俺の人生で数少ない友人ってやつなんだろうな。一応、は」


「友人として扱っていただけるならばありがたいですが」


「だが、飼い犬のことを友人と言ったりするだろう」


「やっぱり犬猫扱いですか」


 私は諦めながらも冷蔵庫からもう1本ミネラルウォーターのボトルを持ってくる。


「犬は人類最良の友だ。猫は知らんがな」


 リーパーはそう言って小さく笑う。



「俺たちは友人だ。いつか殺し合う、その日までは」



 私とリーパーの間にあるのは、そういう関係であった。



……………………

これにて第1章完結です!


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結局リーパーは何者なんだろう インプラントなしで魔法も使わずサイバーサムライの真似事ができる? いや、主人公が気づいてないだけで実は魔法使ってたりして……
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