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バリー公爵、カイルたちを敵認定


 ジーンは鞘に剣を収め、バリー公爵に返した。


「ありがとうございました」


「いや」


 そう答えたあと、バリー公爵の顔に笑みが浮かんだ。剣を受け取りながら、ジーンの肩をバンバン叩く。


「見事な構えだったぞ――君のことを優男やさおとこだと思い込んでいたことを謝ろう。相当できるな」


「いいえ」


 ジーンが苦笑いを浮かべる。


「友人のコネリーという男が騎士をしていまして、彼から『構え方』だけ重点的に教わったことがあるんです。その時、コネリーに言われました――お前は弱いから、いざとなったら戦わずに逃げろ。それでも逃げられそうになかったら、慌てずにしっかりと構えて、できるふうにハッタリをかませ、と」


「おい、嘘だろう! まさか、構えしか習っていない?」


「そうなんです」


 バリー公爵がククッと笑みを漏らす。


「そうか……君はとんでもなくイケメンだから、見せ方に関して勘が良いのかもな? 他人に見られることに慣れているゆえ、姿勢の作り方が見事なのだろう。ふーむ……それを指南したコネリーくんとやらも、ただものではない……良い人材だな……」


 とはいえ、とバリー公爵は考える。


 先ほどのジーンには『覚悟』があった。バリー公爵が見るかぎり、彼の怒りは本物だったし、あの時はハッタリどうこうの計算はしていなかったはずだ。


 相手が手袋を拾っていれば、そのまま決闘をしていただろう。そしておそらくジーンが勝っていた。開始前にあれだけ圧倒してしまえば、敵は萎縮して手も足も出まい。


「コネリーのおかげです。僕は友人には恵まれていて、いつも助けられています」


 ジーンはにこりと笑んでみせてから、アメリアのほうに振り返った。


「――アメリア、大丈夫?」


 問われたアメリアは涙ぐみ、小さく頷いてみせた。


「うちは……大丈夫です。ジーンさん、かばってくれてありがとう」


 ジーンから声をかけられて『もう大丈夫なんだ』と実感できたら、アメリアの膝が震え出した。


 ああ、ものすごく怖かった……!


「ジーンさん、抱き着いてもいいですか?」


「いいよ――おいで」


 アメリアはジーンの懐に飛び込んだ。


「決闘とか、怖かったです~~~~~~」


「ごめんね……」


 彼が優しく抱き留めてくれる。


 アメリアは泣きながら『ジーンさんが怪我しなくてよかった!』と考えていた。


「ジーンさん、もう決闘は二度とやめてください~~~~~~」


「そうだね、そうする」


 こんなに優しい人なのに、彼は大切な人を護るためなら、あんなふうに勇敢になれるんだ。物理的な危害から護るだけではなく、ジーンはアメリアの心も護ってくれた。


 あの時ジーンが本気で怒ってくれたことで、アメリアは救われた気がした。


 過去に実家でされたあれらの虐待は、被害を受けたアメリアに非はない――ジーンがそれを命懸けで示してくれた。


 胸が温かくなる。


 昔、怖い思いをして泣いていた自分に、救いの手が差し伸べられた思いだ。時間を巻き戻すことはできないし、過去は変えられない――それでもジーンがしてくれたことには大きな意味がある。明日のための力になるから。




   * * *




 抱き合う恋人たちを眺める、バリー公爵とその部下は――。


 バリー公爵が部下に囁きかける。


「ドラゴン退治が終わったら、アメリアの実家であるファース侯爵家を徹底的に調査する」


「承知しました」


「アメリアの親は善良な娘にずいぶん残虐なことをしてきたのだな。先ほどは聞いていて胸が痛んだ。そういう異常な領主は領民にとっても害になる可能性が高い。よく見極める必要がある」


「今日、決闘から逃げたカイルはどうしますか? 次代のファース侯爵らしいですが」


「あいつも逃がさん。このバリー公爵の面前であの下衆げすな振舞い――さて、どう落とし前をつけさせるかな。あとで追い込みをかけるのが楽しみだ」


 バリー公爵は軽く笑んでいたが、目つきは凄惨だった。


 部下はピリッと気が引き締まる思いである。



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― 新着の感想 ―
[一言] 公爵閣下頑張れッッ! 後顧の憂い無くアメリアちゃんが幸せになれるようお膳立てしてあげてくださいね。
[良い点] バリー公爵いい人…会えて良かったですねアメリアさんジーンさん。 蛙さんたちを封じ込めて近づけなかったから、アメリアさんの実家は心が歪んだ人ばっかりだったのかな…
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